ばらと遊ぶ12ヶ月 4月

1. 季節のお便り

 山や野の新緑の季節。ひいき眼だろうがばらの若葉のみずみずしい美しさは、ことのほか胸を打つ。ばらの美しさは花だけではない。あくまでも柔らかい紅いの葉。陽光に反射してまぶしいばかりの照り葉。そしてそれらの成長とともに展葉し、やがて着蕾し、糸芽を迎える。いろいろと想いを込めて花の時期を待つ。一年中でもっとも期待感に溢れた頃である。そして大型連休を迎える。当地九州では5月に入ってから、中旬にかけて開花のセレモニーが始まる。さて、どの花が最も美しく妖しく咲くのであろうか。

 同時に雪に閉ざされていた北陸や東北の方たちの一陽来復の気持ちがいかばかりかと思う頃でもあります。みなさん、ことしこそ思い出に残る花を咲かせたいものです。

2. 花の直前から花の後まで

イ. 消毒は開花の直前に

 一枚の葉にもアブラムシが来ていない。一枝もウドンコ病にかかっていない。春の病虫害はそんなにしつこくはない。やはり一番問題になるのはスリップスである。スリップスはミカンキイロアザミウマやチャノキイロアザミウマなどの総称で最近は薬剤耐性も出てきており、地方によっては厄介な虫害である。美しく咲いた花弁の先端の甘い蜜を吸うために弁端の花のいのちとも言える部分を褐色に食害し美観を著しく損ねてしまう。3月号でも書いたが、必ず下表の殺虫剤と殺菌剤の組み合わせで一週間から10日間隔で散布するように。

薬名希釈効果
a オルトラン 2,000 スリップス、アブラムシ、ゾウムシ
b スミチオン 2,000 スリップス、アブラムシ
ダコニール1000 2,000 ウドンコ病、黒点病
サプロール 2,000 ウドンコ病、黒点病

 消毒が徹底すると、「そんな病害は知らない」という人がいるが、ほんとうはこれが理想である。スリップスに限らず何でも「初期防除」 というより、「予防」でなければならない。
そして、 花の咲いている約2週間は無消毒でいくことにしたい。

口. 雨がどうか降りませんように

 花の時期に長雨にやられて泣きべそをかいた経験者は多分誰でもいよう。露地栽培の泣き所は雨に弱いことである。 一年で一番楽しかるべき時期に最も悔しい思いをしないために、みなさんそれぞれに工夫をする。ビニールシートをかけるのも一案である。広さと場所でいろいろの応用が考えられるので、どんなに狭いところでもJAや園芸店に相談されることを勧めたい。

 「雨のために美観が損なわれる。どうしたらいいか。」というと、「なあにそんなことを言っていたらきりがない。」という先輩がひょっとしているかも知らないが、それはそれでいい。 究極の美を追求するためには、雨は絶対に避けることが肝要である。

 雨に当った方が良く映る品種もないではない。もう随分前の話になるが、故原田敏行氏作出の「真珠」はその最たるものではなかろうか。以前はわざわざ霧吹きをして真珠の水滴を楽しんでいた。最近になってからは、普通のときでもいい花になってくれない。 何故かハウスで作るようになってからうまくいかなくなった。

 雨でシミが出るのはボトリチスという病菌が付くからである。「雨よけなど煩わしい。」 という方のために、耳よりの話を。ボトリチスはハウスで猛威をほこる灰色カビ病と同じ病害であるので、遅くとも蕾に花の色が糸状に走る頃のいわゆる糸芽のときか気持ちで言うと1分咲きくらいまでに スミブレンドの2,000倍を単用しておくと随分いい筈だ。 最近はセイビア、ストロビーなど新薬も出ている。効果はいいようだ。

ハ. 展覧会への出品

 九州地区では春の展覧会は5月の第2週と第3週の土曜、日曜にかけて行われるのが常である。久方の待望していた花である。栽培者は咲き始めると、どこかしらソワソワし始めて、ばら会のばら展の出品についていろいろ想いをめぐらす。
ばらを会場に出品するまでには数々の予選を通過 しなければならない。

 まず、第一次予選は自分のばら園で行われる。自分の責任において自分が審査員である。いま自分の庭で咲いている花のなかで、最高の出来にな る予定の花を選別する。自分の鑑賞眼と審査会場の審査員の眼と同レベルにあるかが大きい問題点である。どんなにいい花を作っていても、会場に持って行った花が二流で自宅に残っている花が1等花であることがたまに起こる。これについては宇部の故原田会長からA氏のガーデンパーティでの話を大変参考になる話として聞いている。 それはA氏の出品したガーデンパーティが期待したほどの出来になっていない。どうもおかしいと思って自宅に行ってみたら凄いのがいっぱい咲いていたというのである。監督がヘボでいい目利きでな いためにいい選手を控えに残し、いつも2軍選手を出して試合に負けるようなものである。選手を育て上げるコーチとしては有能でも、いざ実戦の指揮を取ることになるとうまくいかない。いくら実戦で場を踏んできても 「名選手必ずしも名監督ならず」そういう監督も現実いるのである。これは極端な例を言っているのであるが。わたしもどうもそれに近いようである。それと出品規定という厄介な問題もある。大体において「いい花はいい」のであるが、そのなかに、ウドンコ病にかかっているとか、5枚葉が花瓶の上縁りから花首まで50cm以内に5枚葉が3枚以上付いているかとか、ヘンな出品規定がある。要するに美しければいいのであるから、そんな規定などなくてもいいのにと思うのだが。

 次の予選は運搬移動時の揺れ、温度環境、到着までの時間などの移動のときに派生するもろもろの条件である。地元で1時間もあれば会場に着く者と5時間6時間かかる者と横一線で勝負しなければならない。囲碁やゴルフのようにハンディが設定されているわけではない。しかし最近は以前のようには「遠距離交際」も気にならなくなったようである。いちいち気にしていたらきりがない。現実は現実だからと諦めているフシがあるのと、ほんとうにいい花が出来るようになったからだと思う。いい花はいつまでたっても開花が進まないし弱らない。春の出品の場合は地元開催が多いので、時間のハンディは小さい。品種にしてもいまのところ、出たとこ勝負である。大文字しか咲いていないので大文字を持っていくということになる。

 運搬のときはわたしは春のばら展では福岡までの3時間の行程をゴザに包んで持っていく。1本1本の花に白い和紙をかぶせ、移動時に花の傷まないように持っていく人もある。底の深いポリ容器に入れて運ぶ人もいる。それに氷水で水温を下げて花の開花をおくらせたり、切花延命剤を入れ たりして持っていく。

開花した花の延命剤としてはいろいろ市場に出 まわっているようだが、 フレッシュキープ、 花の 精などは一般の花屋さん向けに業務用として使わ れていて、一般家庭用ではフローリスト、リピー ト、クリザールなどがあるが、 実検した結果では ばらにはフローリストが一番効果があるようだ。 いずれも共通していることは糖分が入っていてベ トベトすること。 水が長時間濁らないようにして あり、 切り口の皮膜化防止を目的としているよう だ。

 開花した花の延命剤としてはいろいろ市場に出まわっているようだが、フレッシュキープ、花の精などは一般の花屋さん向けに業務用として使われていて、一般家庭用ではフローリスト、リピート、クリザールなどがあるが、実検した結果ではばらにはフローリストが一番効果があるようだ。 いずれも共通していることは糖分が入っていてベ トベトすること。水が長時間濁らないようにしてあり、切り口の皮膜化防止を目的としているようだ。

 最終予選は自分の持ってきた花が審査時刻になってどれが最もよく咲いてくれるか見極める作業である。審美眼と化粧作業の世界であってわたしの最も不得意で嫌いな分野である。本人のセンスの問題である。自宅で春秋年2回行っているばら個展にしても生け花の先生に任せっきりで自分から手をつけたことがない。「わたし作る人、あなた生ける人」の完全分業でやってきている。だから、いつまでたってもうまくならない。これはどれだけ訓練をしてもだめなものはダメというやつで、自分でやってもうまく行くわけがないと、はなから思い込んでいる。不得手というより折角の花を自分でだめにすることが怖いのだ。だから、コンテストの準備会場で花を持ってきているのにボヤッと突っ立っている者がおればそれは間違いなくわたしである。

 いい花はいい。これはわかるが、自分では手を下せない。よく、自分が最初に出品したときのことを思う。とても気恥ずかしく、花を届けたらすぐにでも帰ってしまいたいほど上がってしまって、出品予定者のどのばらよりも劣っているように感じる。 わたしはいつになってもそれである。

二. 写真で美を楽しもう

 わたしの20年足らずのばら栽培の中で、一体ど れだけの花を写真に残しているであろうか。まあまあまともだと言えるものは数えてみてもせいぜい百枚にもならない。みなさんはどうであろうか。性格のいい加減さもあるが、花は生き物だからその場その場の、音楽でいうとライブでなければ本 当の音楽ではないと思い、言ってきた時期があった。ばらにとっての写真は音楽ではレコードであり(これは昔、というよりごく最近まではそうであった。この日進月歩の恐ろしさよ。) テープであり、CDである。

 モーツアルトのシンフォニーを生で聴くとしても、誰が指揮し、演奏するか。同じ演奏家にしても場所により、気分、ホール環境により出来不出来が大きく変わることを知っている。しかし、われわれは誰それの演奏会だから面白そうだから行くとかの判断をする。しかし、誰それが演奏したものであっても、そのCDはいいとは決して言えないのである。

 ばら作りはこのように音楽の世界とまったく同じである。その中で写真はばらという作品を再現するために必要な道具である。いままでわれわれは生の演奏ばかり聴きにいくことばかりを考えていた。しかし、生の演奏はそう聴けるものではない。写真というCDが必要なのである。音楽の世界では商業ベースに乗せるためにCDの音を生の音に近づけようと努力してきた。そしてほぼ達成された。そういう意味で、先月号に紹介させていただいた写真の撮り方を参考にして大いに撮りまくってほしいと思うのである。皺くちゃのアルミ ホイルをボール紙に貼り付けたものをカバンにしのばせておくなんてァちょっとしたカメラマン気取りではありャせんか。

ホ. 2番花の準備

 5月中旬に咲いた花 (正確には咲く予定の花) は3月12日リアルタイムで撮影した写真を見てもわ かるように腹接ぎしたものあり、芽接ぎしたものありでおしなべて40cm以内の高さに剪定位置を押さえてしまったので、春の花は110cmの辺りにずらっと咲くことになるはずである。そのままにし ておくと、6月下旬から、7月初旬にかけて45日位で再び2番花が咲くことになる。 1番花の切りかたで ①コンテスト用に長く切ってステムが残っていない枝。これは葉が3段くらいしか残ってい ない。②室内用に軽く切ったもの。これには葉が6〜8段くらいついている。③庭でそのまま咲いた枝。これは平均12段くらいは葉が付いているだろう。

 この3種からのステムをどう仕上げていくとよいのだろうか。原則として2番花を全部咲かせる気持ちでいいだろう。勢いを見て、やや貧弱なものはステムだけ立てて、蕾までいったら花首をもぎ取る作業をしてほしい。1月号でやや多肥栽培を推奨したのでシュートは適当に随時出てくれる筈である。その代わり、いつ花になってもおかしくないように手入れだけは怠らないように。

 消毒はウドンコが出やすくなっているので、ダ コニール1000、サプロールだけではなく、ミラネシン、ポジグロール、サンヨール、ダイセンステンレス などを濃度を1番花前の2,000倍を1,600倍くらいに上げて使えばよい。殺虫剤の方も、スミチオン、オルトランだけではなく、DDVP、トレボン、アドマイヤーなどを追加し、定期防除するようにする。

 問題なのはダニ、ベト病、灰色カビ病、しつこいアザミウマ系であるが、この時期までは多分大 丈夫であろうから、定期防除に入れるのは次の号でよかろう。

へ. シュートの手入れ

 ことしになって、シュートを多く出させるために深切りして、開花本数もやや禁欲的に春を過ごした。腹接ぎした樹の活着状況も知りたい。こうしたなかでシュートの手入れを書くが、シュートピンチを励行するだけでよい。シュートピンチとは出た芽を5枚葉が5段出来ればどんなに若くても短くてもそこを残してピンチ (親指と人差し指で挟んで折る) することである。決してピンチを忘れて放置しないように。

ト. 追肥と灌水

 追肥は1月号で書いたように十分な肥料をくれているので必要としない。その代わり水を通常より多く頻繁にやるように。水は有機発酵ぼかし肥料でいうと、バクテリアの増殖に密接に関連していること。無機質肥料でも緩効型肥料では水の介在で溶出がシュートを出させたいからで、1株から十分のシュートが出たときには多灌水は止めるように。

3. リアルタイムでいくと

 原稿ギリギリでいま現在のばら園の栽培状況がどうなっているかを紹介することにしたい。3月中旬に脱稿したこの号は1ヵ月半先の5月上旬に届くことになる。だから、記事は結局いままでの経験の集積によるものであって、いままで 『ばらだより』に書くことを覚悟して記録にとっているわけではなかったので、ことしはどうだったかの記録は残らない。そこで、全くの思いつきで申し訳ないがいま現在でどうなっているか。できることなら自分のばら園だけでなく、「どこそこでは」 まで入れていきたいと思っている。
これも「ばらと遊ぶ12か月」にさせていただいたわがままの一つである。

 写真はわが庭の切り接ぎ剪定の紹介である。1月号2月号で紹介したものがどうなっているかである。

写真1. あけぼのの接ぎ木

 写真1. あけぼのの接ぎ木
 あけぼのの接ぎ木略図

 写真1をわかりやすく図にすると、 ①は去年夏の腹接ぎである。 昨年夏は③から上に勢いよく上がり花枝が4本あったのに、手前の根本で2本活着している。②がこの春接いだ穂である。③は比較的低いのでそのまま剪定した。 (実際には④の部位で接木して③は剪定して1節低くするところであるが、いろいろの試みをしている。) 今春はこの木から4本のあけぼのを期待している。

 写真2. CI. ブルームーン
 写真3. 紫野

写真2. CI. ブルームーン

 去年は胸のあたりでレディマリーを接木してみ た。もちろん咲いたが、ことしは高さを低くする目標のために全部切りつめた。テープを巻いているだけで接ぎ穂が見当たらない所は芽接ぎをしている。

写真3. 紫野

 たびたび話題にしている紫野である。2月号の写真で上を剪定して切り落としたところである。


註:4月号の内容のうち「実生の話」と「古典を訪ねて」は割愛

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