ばらと遊ぶ12ヶ月 3月

1. 季節のお便り

 当地九州では3月末から4月上旬にかけて、剪定を終わった頃芽から力強くも鮮やかな新芽が吹き出し、そして展葉します。あけぼの、武州、ロ イヤルハイネス、プリンセス・ド・モナコなど照り葉の美しさは開花した花よりもっと新鮮です。それにコンフィダンスは照り葉ではないのになんという美しさでしょう。ことばを知りません。去年暮れに還暦を迎えましたが、年を取るにつれてしだいに新しい春に対する感謝の念が強くなってまいります。

 同時に雪に閉ざされていた北陸や東北の方たちの一陽来復の気持ちがいかばかりかと思う頃でもあります。みなさん、ことしこそ思い出に残る花を咲かせたいものです。

2. 花までの中間管理

イ. 春の展葉若葉はことのほかいとおしく

 剪定枝から出てくる新芽は形成層が薄いほど、弱々しく、早く出てくる。形成層の厚いものほどずんぐりと強く、遅く発芽が始まるがやがて先発の部隊に追いつき、圧倒的な樹勢で仲間を従えるようになる。樹勢が強いものほど脇芽も出てくるが、芽欠き作業は主芽の両端からの脇芽が勢い余って展葉するようなときにもぎ取るくらいでよいだろう。剪定枝の開花本数をステムの大きさでコントロールしているが自然にまかせておけばいい。

 春の花がこのステムの頂点に咲くと思えば若葉の1枚1枚もおろそかにできない。ましてや病害虫に侵されることなどは論外である。

ロ. 消毒薬はできるだけ薄く希釈して

 春先の消毒薬で薬害の発生するときほど無念なことはない。そこで、いままで散布した消毒薬のうちで最も害のない薬を通常より、更に希釈して使用するようにしたい。

 春はまだまだ病菌も虫も花前には活動がさほど活発ではなく、発生してから消毒してもいいくらいであるが、やはり予防を建前にして対応したがよい。消毒のパターンは下表のような薬剤、もうかなり前から使われていて薬害がなく信頼されているものを使う。

 a-イ、b-ロ、a-イ、b-ロの組み合わせで10日間隔でよいが、サラリーマンは10日というインターバルがなかなかつけにくく、2週間間隔になり勝ちで、そうなると必ずと言っていいくらいに病害虫が発生する。そこでサラリーマンは7日ごとの消毒をすすめたい。

 消毒の開始時期は気温の上がり始めるころから。九州は4月初旬からである。葉が堅くなってからは2,000倍を1,500倍に落としてもよいが、消毒は出来るだけ薄くうすく散布するようにしたい。

 4月下旬から開花にかけてはたいていの病虫害は下表の処方箋でいいが、地方によっては厄介な病害がある。灰色カビ病とベト病である。

薬名 希釈効果
aオルトラン2,000スリップス、アブラムシ、ゾウムシ
bスミチオン2,000スリップス、 アブラムシ
ダコニール10002,000ウドンコ病、黒点病
サプロール2,000ウドンコ病、黒点病

 灰色カビ病は弁端に灰褐色の胞子菌がついてせっかくの美観を著しく損ねるが、ひどいのになると萼が落ちても花びら同士がくっついて離れきれずに開花せずに終わる。花びらに小さい黒い点がつくことがあるがこれも程度の軽い灰色かび病である。それにはスミレックスという特効薬を使っている。これも2,000倍でいい。

 ベト病は葉に胞子が飛来して付着すると18~20 °C辺りで爆発的に増殖し、一晩のうちに若葉が一面にベトベトになって落葉してしまう恐ろしい病気である。去年の年報にも書いているが、「ばらだより」をひもといていたら、鬼小島の異名をとるあの小島元理事長が1985年の3月号に「ベト病との戦い」と題して書いておられる。ここから「佳 花あるところベト病あり」となったのかもしれないが、 気休めの夢、希望らしきものが出るのはそのことばで慰めを受ける瞬間だけ。出物腫れ物ところ嫌わずというが、いつの時期も戦々恐々であ る。乾燥地帯ではなかなか発生しないが、当地ではいつも悲しいワナがあちこちに仕掛けてある。ダイセンステンレスやアリエッティ、クリーンヒッター、リドミルMZなどがあるが、ダコニー ル1000でも効くので、春先は上表の処方で結構である。

 ベトもボトも (灰色カビ病は別名をボトリチスという) 高温多湿のところで水滴がついて乾きにくいところがいちばん菌が好む環境である。 他にばら茎蜂の飛来があるが、最近はあまり聞かなくなった。よほどのことがない限り「刺されっぱなし」にしており、グニャッとなれば諦めて次の花を待つことにしている。ばら茎蜂にやられたステムから咲く花は周期が早く、30日もすれば咲いてびっくりしたことがある。

 また象虫の特効薬としてトレボンがあるが、 これは乳剤でなくマイクロカプセル(フロアブルタイプ)のものをすすめる。そのかわりスリップスには効かない。

ハ. 潅水は大雨が降った感覚で

 春の剪定から20日くらいたつと発芽、 伸長、 展 葉、着蕾、開花とばらにとっては冬の休眠から目 覚めて慌ただしい時期がずっと続くことになる。 ばらはいったいどれくらい水を必要とするのだろうか。 切花栽培している人に聞くと、100坪 (通路を含めた面積)当りで400リットル/分で5分= 2トン、可植面積当りでは全面積の4割くらいのものであるから 2,000リットル/40坪=50リットル/坪を冬場 で7~10日毎に、夏場で3~4日毎に潅水してい るという。 剪定してから展葉着蕾開花までは一挙 に水分を摂取するだろうから、夏場の頻度でも十 分ではなかろうか。 因みにばら水耕業者は坪当り 18株、 1株当り毎日1リットルの水分そのうち3割はロス。 だから1坪当りの所要水分量は
700ml×18株×7日=88.2リットル
だから、大体両方からいって納得いく数値である。

 雨が降らなければ可植面積当りで7日間隔だと坪当りで70リットルは潅水しなければならないことになる。

 さて、問題となるのはこれだけの水を貯えるだけの床土になっているかである。かちかちになった土ではとてもこのような1株あたり15リットルもの水を保てないだろう。樹勢の強弱も関係して くるがそのような土になっているだろうか。

二. シュートは1回だけはピンチする

 わたしの強剪定計画によって春の花は100から120cmのところに咲くことになるが、早いのになると3月下旬からシュートが出始める。 弱いシュートも強いシュートもともに1回だけはピンチし、翌年の剪定場所を確認し、ステムの充実を図ることが大切である。

3. 新苗の植え方

 ポット鉢で育て上げた新苗は白根を乾かさないように直ちに鉢から植え床に移すことが必要である。植え床は下図のようにする。

 ①は幅50cm、深さ40cmの塹壕堀りを示す。溝の長さは植え込み本数に応じて決める。④の株と株の間は最低50cmはほしい。65cmあれば十分である。 ②は堀上げた土の断面図でそこに1株当りに15リットルの堆肥と窒素、リン酸、カリの成分合計が8~11%までのぼかし肥料を約800g入れながら掘上げた土と十分に混合し、掘ったところに埋めもどすのである。 ③は鉢苗の植込み深さである が、鉢の3/4が植え床に埋まる程度の高畝にする。理由は植込んでしばらくすると必ず少しは沈むことと、年々管理していくうちに、マルチングや覆土などで必ず低くなっていくからである。株が低くなって植え床より低くなっているところを見かけるが、わたしのばらは全部株の部分は植え床から5cm以上は浮いている。シュートが出るとき、古木の剪定のときなど株が高めにある方が便利である。

 苗が鉢ものになっていないで、ビートモスや水苔で包んで業者から送られて来る場合は直接植込まないで根の先端を全部1cmほど鋭利な挟みで切ってから直ちに5号鉢に入れて育てる。用土は赤玉土、 ボラ土、ビートモスの等量混合品のように肥料分の少ないものが良い。潅水は植木鉢と同じである。透水性は十分であるので春先であるが、毎日行ってよい。鉢底から白根が出てきて、鉢全体を白根が巻きこみ、 苗を鉢から引き上げても土ごと持ちあがるほど生育するようになってから、本格的に植え床に移すことが大切である。

 鉢植えの場合は1月号2月号と本号の4に関連事項として説明しているので省略する。

 説明中、ぼかし肥料の8~11%までとあるのはすべての有機発酵肥料は成分合計が11%までしかならないということ。 従って、肥料袋に有機肥料とうたっていても窒素、リン酸、 カリの合計が12%以上になっているものは必ず無機物が入っておりこれを使うと根を傷めるので注意した方がよいということ。堆肥から来るアンモニア態の窒素が10~20g/株当りあるが白根を十分に張っているので大丈夫である。根を傷めることはない。

4. ばらの鉢栽培(2月号の続き)

イ. 福島氏の原稿(前号続き)

 発芽後新根の発生を確認してから潅水は薄い液体肥料に切りかえる。 肥料は微量要素入りであれば特定しなくてもいいと思うが、わたしは以下のものを交互に使用している。

 鉢植えは3.5~5号鉢とし、①6節ピンチ後、2段目の発芽時を目安とする。

 用土は、長期栽培調整ビート6:ボラ土3:赤玉土1の割合にする。 植付けは3月下旬。 (以後の用土はすべて鉢植え用土の割合とする。)

品名窒素%燐酸%カリ%希釈倍窒素濃度ppm
ポリフィード5号11834400028
硝酸カルシューム17500034

注) ポリフィード5号にはマグネシュームで2%、 微量要素としてモリブデン、マンガン、ホウ素が入っている。硝酸カルシュームは希釈後、酸化カルシュームとして68ppm入る。

 肥培管理は上記肥料を②生育期間中ずっと潅水替わりに与える。

 空中支柱は1畝4列に13cm間隔に配置する。支柱1本に1花咲かせる。奥行15メートルを前後1メートル作業道に取り、③13メートルに400本の秋ばらが咲く予定で2畝だから800本の開花となる。 設置は地上70cmから80cmのラン支柱を利用し、上下2ヶ所80cm、140cmにハウスバンドを張り、ビニタイで結束する。

 仕立て方法であるが、 ④シュートピンチで育て、高くなりすぎの枝は⑤秋剪定の40日前に切り下げて剪定位置を調節する。 (秋剪定の位置は150cmとする。)  剪定は先端の枝を落とす位の極めて弱い剪定を目標にする。

 植込みは前号にもふれたが、コンテナーに2株 とする。 HTは60cmを縦に2列並べる畝作りである。コンテナー幅は80cmになる。株間は32.5 cmである。畝当り80株、1株当り5本の花枝になる。 ミニばらは60cm幅を横並びに置くので、そのまま40cmの株間である。ミニばらは6月から随時咲かせる。空中支柱は設置しない。

 写真説明: 左から香久山、魅惑、メルヘンケーニギン
  • 接木日  H.12.12.21  3.5号鉢  鉢上げ
  • 鉢替え  H.13. 1.13    5号鉢  鉢上げ(1)
  • 鉢替え  H.13. 2.  9    6号鉢  鉢上げ(2)
  • 定植予定 H.13. 3.10   (40X60X20)コンテナー入れ
  • 写真は  H.13. 2.13    リアルタイム撮影

ロ. 若干の質疑

問:①はどういうことか。
答:接木の新芽をそのまま伸ばすより、5枚葉7枚葉柳葉含めて6段のところで手でピンチしてやる。そのころになると根が充実して植えかえしても大丈夫になる。その時期をさしている。

問:②は開花直前のどのくらい前までと考えて いるか。
答:ずっとである。去年の秋は東京に出品したときまで、それ以降も同じやり方であった。

問:花が悪くなると言われているが。
答 :よく考えると切花業者は収穫と成長と同時進行であり、われわれのように成長は成長、花は花ということにはならないではないか。 しかし、きれいに仕上がっている。だから、花のときには水を切るように昔から言い伝えられているのは自分としてはやや疑問に感じている。その証拠に液肥を切るとすぐにウドンコ病が発生する。

問 :③ 13メートルに13cm間隔だと100本取れ て、 それが1畝4列だから400本。それが2畝あるから800本。果してそんなにうまくいくものか。
答:去年の栽培では香久山もあけぼのも平均6本。コンフィダスやメルヘンケーニギンは7本は立っている。いずれも成木ベースである。だから、ことしは1か月は早めに接いでいるので十分いけると思う。

問:④シュートピンチで育てるというが。
答 :これは後日くわしく説明することになると思う。要するに、柔らかい芽で5〜6節のところでソフトにピンチしながら、つないでいくことを言っている。

問:⑤についてはどうか。
答:鉢だけではなく、露地にも参考になると思う。これについては後日くわしく説明することにしたい。


註:3月号の内容のうち「写真の上手な撮り方」と「古典を訪ねて」は割愛

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