ばらと遊ぶ12ヶ月 6月

1. 季節のお便り

 当地九州では5月10日から20日までにかけて春の開花があり、それから約45日後に2番花が咲きます。2番花の開花タイミングは生理的にばらつきが起こるので6月中下旬〜7月上旬まで適当に咲いてくれます。

 花は初夏の匂いがして若干小振りになるが、それでも十分楽しむことが出来ます。東北・北海道の方たちはこの時期どうされているのでしょうか。

2. 2番花後の手入れ

イ. 秋の剪定位置をいまから決める

 今の時期は2番花が咲き、高い枝では150cm見当、低い枝でも120cm見当まで伸びているが、秋の剪定位置をどのように決めるか。

 最もスタンダードな方法は2番花を咲かせたら、その花を切らずにもいで、2枚葉、3枚葉の葉柄部から出る芽を遊ばせて2番花ステムの中央部の葉柄部の芽を動かさないように注意しながら秋の剪定まで待機する。

 シュートが出れば最初のシュートピンチをした後さらに1回、2回とピンチしてその後遊ばせている。

 このような方法だと剪定の位置はまちまちになり、遊ばせが過ぎるとステム当りの葉数が多くなり、下葉の枯れ込みが始まる。秋の剪定の際には有効芽を追っかけていやでも上部での剪定を余儀なくされる。シュート枝だけは葉が多くなっても下葉の枯れ込みはないが、2年目、 3年目のステムはよほど地下部が丈夫に育っていない限 り下葉から落葉が始まる。 下葉を枯らさずに持ちこたえる葉数は上部ステムの5枚葉までだと数えて大体20段が関の山である。「梯子をかけて手入れをする」 話をよく聞く。筆者も身長が並よりちょっとだけ高いことで高所作業をいとわない習慣が出来ているが、よく考えると仕事の出来難い条件を自ら作っているようなものである。それも「高いところに咲かせる花は佳花になる傾向がある」というもっともらしい神話を拠り所にしてである。本当だろうか。これには大きな前提条件の見落としがあるような気がする。「下葉がどうなっているか。落ちずにずっと上まで来ているか。 多分ノーであろう。」

 見方を変えて、1本のステムからどのくらいの葉が付くのであろうか。剪定してから花までの数は大体次のようである。

品名段数平均
シージャック12, 13, 14, 1313
メルヘンケーニギン13, 12, 12, 1313
あけぼの12, 10, 11, 1011
みわく9, 10, 11, 1010
武州13, 15, 14, 1414
ガーデンパーティ11, 13, 15, 1514

 この段数をもとに下にどれだけの段数を維持出来るかを考えると春の1番花で4段残っていればもう6段6段残っていればもう4段、結局10段は保有出来るであろう。 1段の間隔を6cmとすると10段で60cmとなる。剪定高さを40cm以内とすると、これによって剪定位置は約100cmのところが妥当の線となる。つまり、下葉を落とさないぎりぎりの高さを維持して咲かせるために目安としては春の剪定位置から10段のところを秋の剪定位置にするのである。

口. 切り戻しピンチという技術

 筆者はこの原稿を引き受けて以来、毎号の記事で剪定の位置を出来るだけ低くすることに拘ってきた。それは従来の秋の剪定を少しだけ変わった方式に切り替えてみようとする考えが底流にあることを理解していただきたい。

 それがこれから紹介する切り戻しピンチの手法である。簡単に言うと7月の上中旬に現在育っているばらの全ステムを冬の剪定から3〜5枚つけてバッサリと切り戻す方法である。 切り捨てたばらの葉は約20段近くにもなる。

 従来の栽培法でも剪定時にはかなりのステムを切り捨てており、ばらはそのために地下部はかなりのショックを受けながら、秋の花枝を立てている。どうせショックを受けるのなら7月の上中旬には大ショックを受けるが以後約60日のうちに立ち直り、若々しいステムを成長させ、剪定時には従来法とちがって何らショックを受けることなく秋の花枝を立てる方が却って理屈にかなっているのではなかろうか。というのである。

a. 本法の長所

 本法の長所を列挙すると次のようなものである。

① 剪定するステムに勢いをつけ、そのまま助走をつけてステムから花枝を立てる。

 7月の上中旬に上記の要領で切り戻し、出てくる芽を1回または2回、3回とソフトピンチを繰り返し、約70cmの若々しいステムを育て、そのステムを僅かの切り戻 しで剪定をするか、またはピンチで秋の花枝を立てるので剪定時のショックは皆無であり、そこから出てくる花枝も当然のことながら勢いがあるだろう。それに対して従来法は7月上中旬には既に剪定部位も剪定芽も出来上がっているステムが多く、剪定日までの約60日間保持しなければならない。九州地方では夏が特に長く、ステムの鮮度維持に苦労が伴ない、芽が荒れがちになる。しかも剪定時に多少のショックを根に与えるなど考慮すると切り戻しピンチの手法に軍配が上がるのではなかろう か。

② 勢いあるステムから立ち上がった花枝には当然ながら勢いがある。また従来法に比較し、花枝が長い傾向がある。
③ 上太り品種に好条件

 上太り傾向のあるコンフィダンス、シージャック、メ ルヘンケーニギンなどは最後のステム (剪定するステム)の太さで、花枝ステムの太さを予想することが出来る。 例えばコンフィダンスの花枝は直径6.5mm位のステムに秀花の確立が高いとすれば、剪定するステムの太さは6mmぐらいのステムを剪定すればいいことになる。逆の言い方をすればコンフィダンスの剪定部位のステムの太さが6mmくらいになるように元枝の細いステムは数回のピンチで元枝を太くしていくし、太いステムはピンチ毎の枝別れで分枝を繰り返し、最後を6mmになるようにコントロールすれば良い。

④ 剪定枝1枝1花を理想とする

 上記の方法で最後のステムの太さがその品種の1花を咲かせるステムの太さになるようにコントロールして仕上げるとよいことになる。従来法では剪定した枝が親指大なら3本花を立てるとか、太さに応じて花枝を決めていたが、花枝に合わせて剪定枝を育てるように考え方を変えることになる。ただし、この条件を満たす品種は上太り品種で、且つピンチ毎に分枝がスムースに行われるもの、または大根シュートや大根ステムがピンチ毎に分枝される品種であることに限定されよう。

⑤ 全ステムに日光が当り成育がいい。

 切り戻しをほぼ同じ高さで行うのでそこから全ステムが出発する。成長していくステムの高さもほぼ同じ高さで成長していくので、日光がまんべんなくどのステムにも当り、成育が大変よい。また剪定の高さも揃うので当然花枝も一様に日光が当り葉のバランスや葉がとても美しい。

⑥ 剪定から下のステムに葉がたくさん付いている。

 切り戻し点から剪定部位まで約60〜70cmのステムは7月以後に出た若々しいステムで落ち葉がなく、勢いよく秋の花枝を育てるので花枝の伸びもいい。 従来の栽培 法では上部が伸びてくると下方の葉は落ち葉がちになる品種がある。コンフィダンス、シージャック、魅惑などは落ち葉がひどい。

⑦ 省エネ効果

 夏場の農薬散布が少なくてすむ。7月に全ステムをバッサリ切り戻すので夏場の農薬量が少なく、散布時間が極端に少なくてすむ。また、作業の手抜きが出来る。春の開花後7月に入っての切り戻しまではしばらくの間手抜きが出来る。

⑧ 大根シュート、 大根ステム対策

 大根シュートが出易い品種で枝分かれせず、大根ステムになったものでも切り戻しによって案外下の方から分枝する品種もある。このような品種は数回のピンチで分枝し、4の条件に適するようにコントロールしやすい。

⑨ シュート無用論

 冬の剪定も毎年低く切り、7月には又低い所まで切り戻し新しいステムを更新して立てて行くので必ずしもシュートを必要としない。むしろシュート花よりも花がスッキリして良い。

⑩ 不測の事故時の避難対策

 春の花後7月までに何かのトラブルでばらの葉を落としてしまった時、この方法でステムを切り戻し辛抱強くピンチ、ピンチで上へ育てて行けば初めに出てくるステ ムはか細いステムでも上太り品種は最後の剪定時までには何とか回復する。
 従来法では落葉して上部に僅かの葉がついているステム を剪定する時は (イ) ステムを曲げる。 (ロ) ステムを折る(上部を切り離さないようにして) 等の避難対策であるがそれらよりは幾分スマートのように思う。

 以上は長所であるが、 欠陥もある。

b. 本法の欠陥

① 先細り傾向にある品種は不向きである。

 ピンチして繋いでいく際にピンチするにつれて次第にステムが細くなっていく品種、つまり先細り品種は切り戻し後立ち上がってくるステムが細く且つ弱小小枝が多く秋花を咲かせる主幹に適さない。

② 夏場の大雨、 台風に弱い。

 夏場に大雨、台風がしばしばやってくる九州地方の露地栽培では切り戻し後の若いステムは被害を受けやすく要注意である。

③ 冬の剪定が高くなり勝ちな品種の切り戻しのタイミングの取り方がむづかしい。

 この種の品種は切り戻してから1回ピンチ2段目をピンチまたは剪定ということになる。従って最終ステムを老化させないためには7月中旬切り戻しにならざるを得 ない。7月中旬に切り戻すと芽が出てこない枝や出て来ても秋花の主幹に適さない弱小枝が多くなりがちになる。

④ 葉と葉の間が長い品種つまり葉間が低い品種も上記3の症状に似て不向きである。
⑤ 切り戻しをして次の芽が出てピンチになるこのサイクルが不規則になりがちな品種は日程のコントロールがむづかしい。

c. 長所短所を踏まえて

① 冬の剪定は目を瞑って可能な限り低く剪定を行っておくこと。7月の上旬に切り戻しをしてから剪定の高さまでのステムの長さは約70~75cmくらいになっている。 秋剪定の高さを120cmとすれば切り戻しの高さは45cm位となり、従って冬の剪定の高さは約30cmにならざるを得ない。冬の剪定を80cm位で行うには少し勇気がいる品種も多い筈である。特にベーサルシュートが出難く途中シュートが多い品種は一工夫が必要である。

② 切り戻しの色々

  1. 春の花枝の花首だけをもぎ取りシュート待ちの処置をしているとき。
    春の花枝のあちこちから芽が出るのを欠ぎつづけると少しずつ芽が下段に移動し、品種によっては切り戻し位置の芽が動いてしまう品種もあるのでそれらの品種は要注意である。
    • 春枝を直接切り戻すので切り戻し位置は一番低くなり好条件である。
    • 7月中旬ではこの枝の切り戻しでは芽が出てこず死に枝が多い品種がある。

  2. 春の花枝をつないで2番花を咲かせたそのステムを切り戻すとき。
    • 上記イの方法より切り戻し位置は少し高くなる。
    • 芽の出る確立はイの場合より少しはよいだろう。

  3. 春の花枝後6月10日頃春枝を切り、次のステムを再度切り戻す方法。
    • 切り戻し位置はロと同じでイよりも少し高くなるが、ロに比べて切り戻すとき切り捨てる葉が少ないので根のショックは少ないようである。

③ この方法で十分の成果を得た品種

上太り傾向のある品種でピンチ毎に必要に応じて枝別れがスムーズに行われ、秋の花枝のステムが比較的上品なステム(ステムの太さ 6~7mm)にいい花が咲く確率が高い。1回毎のピンチの日数やステムの長さが一定のリズムをもったものでコンフィダンス、シージャック、魅惑、メルヘンケーニギンが最適で、次いで千代、あけぼの、武州となった。他に切り戻し時期を変えることにより効果を出す可能性のある品種もあると思われるがその後追究していない。

ハ. 切り戻し1回ピンチ

 7月上中旬に切り戻しする手法は上記のように上太りの品種に限定されることがわかった。しかし、この方法の持ついくつかの特長を生かしていくことは現在の栽培法を見直すきっかけになることは確かである。そこで新たに出てくる発想は切り戻し2回ピンチ、3回ピンチではなく1回ピンチに押さえることである。つまり従来法との折衷案であるが、切り戻しをする点では新奇性はある。

 切り戻し1回ピンチの手法で留意する点は 1 剪定してからソフトピンチができるまでの日数は18日前後であること。2 ソフトピンチから開花までの日数は普通の剪定より約2日早く咲くようである。だから、例えば10月25日開花予定とすると、43日ものだと9月12日剪定であるが、9月14日にソフトピンチする。切り戻しはそれより18日溯り8月27日剪定となる。ソフトピンチの段数は4段目に決める。4段目までに5枚葉が2段無ければ5段目にする。

 ソフトピンチしてから本ステムになるまでの伸び具合は約20cmである。開花高さを190cmに揃えるためにはそれから70cm下の本ステムとソフトピンチのステム20cmを差し引いて100cmのところが切り戻し剪定の位置になる。

ここで若干の Q&A を行ってみよう。

Q:従来の常識では剪定は出来るだけ充実したステムを選んでやるようになっているが、このやり方は無視されているようだ。大丈夫か。
A:いままで、大体10年間試行錯誤を繰り返してきている。その集積でものを言っているのでどこでも通用すると思っている。

Q:切り戻し1回ピンチと2回ピンチ、3回ピンチの差異はどう違うのか
A:春の花枝を4、5枚残してバッサリ切ってしまうとショックが大きすぎる。それを和らげたのが1回ピンチだ。バッサリ切りではなく、10枚残しで切りこみ、その後2回、3回ピンチをすれば考え方は1回ピンチと同じ考え方になるが、それだとソフトピンチによる剪定部位が高くなって開花高さが210cm~230cmと高くなってしまう。

Q:花は咲いても佳花になる保証がない。
A:花の優劣はいまのところはっきりしないとしか言えないが、研究会メンバーがコンテストで天賞をいくつか取っている実例がある。例えば長患いして手入れが出来ずにダニに見舞われ、くもの巣が張り巡らされていた状態で窮余の一策としてこの方法を使った例、ベト病で葉が振るってしまってどうにもならないステムから立派に立ち直った例がある。これらはいずれもコ ンフィダンス、シージャックの例である。

Q:100cmのところで切り戻しというが、そこにいい芽が無かったら切れないではないか。
A:最初から悪い条件を作ることはないが、2番花後 枝を遊ばせている限り、切り戻しは可能だ。

Q:ソフトピンチはシュートピンチと同じ要領か。
A:シュートピンチの概念は地方地方によって若干ニュアンスが違うようだ。ここでは開花高さ、開花までの期間を一定に保つ目的から4段と決めているが、ピンチの時期は3枚葉、5枚葉がやっとわかる程度の10cm以内での作業となる。展葉してからではもう遅い。もちろん蕾などは見ない時期である。それが本ステムになると20cm程度になるはずだ。

Q:品種は上太り品種しか効果がなかったようだが、どれでもいいのか。
A:切り戻し1回ピンチにしたのは上太り品種だけではなく汎用性を広げるためである。理由はわからないがマダムビオレだけがうまくいかないようだ。

Q:この手法の一番の目玉は何か。
A:秋花の開花高さをずらりと一定にできるということだ。それと同一品種でピンチを一斉にやればほとんど一斉に開花するということだろうか。

Q:この方法を自信を持って薦められるか。
A:現状では多分にゲテモノ食いの部類に属するかも知れないが、以上の事実関係をもって興味深くどこまで探求出来るかというところである。

尚、 この記事は九州ばら研究会の皆さんの協力により作成したものである。諸氏に感謝します。

ニ. シュート出しと追肥、 潅水

 一発型の有機肥料によるシュート出しの効果はどれほどの成績であろうか。1月号で述べた肥料をくれている限り、追肥の必要はない。「シュート欲しけりゃ水をやれ。」を実行したい。

ホ. シュート対策

 低位置開花を目指そうとするとき、シュートの発生を促す必要がある。内科的手法によるシュート発生がうまくいかなかったときに2月号で紹介したようにステムシュート状に見たてた根元付近の腹接ぎ方式がある。興味のある方は実行してみられては如何。接木用のテープはパラフィンテープが必須である。入手しにくい方は1メートル当り40円で送るお世話を致します。(返信用封筒つき。本品は30メートルで1,000円見当だった筈。切手と交換。)8月10日締切り。1メートルで4〜5本接ぐ見当です。

へ. 消毒

 露地栽培でもっとも恐ろしい病気は黒点病である。今の殺菌剤は黒点病、ウドンコ病とも両方に効果のある薬剤がほとんどなので、取り扱いの便利なもの、安価なものを中心に選択する。福岡ばら会では1997年のばらだよりの手入れ記事で紹介されているが、ポリキャプタンはわたしが入会した15年前後も前から指導薬剤として積極的に推奨されており、依然として使用されている優秀な殺菌剤である。運用による耐性化も無いようである。500〜700倍で使う。ただ、欠点は散布したあとで葉に白い粉が残り汚れることである。今から剪定の始まる時期は葉が汚れても関係ないので、8月下旬まで使用できる。ダニ類の防除は露地よりハウス栽培において神経を使う。雑草が生えているとそこからダニが発生することがよくある。草取りはダニ対策からも大事である。ダニは世代交代が早いために薬品耐性をすぐに持つようになるので、いったん発生すると防除した積りでもなかなかあとを絶たない。少なくとも2剤は準備することが必須である。去年はバロック、コテツを使って効果があった。オサダ ン、テルスター、ダニトロン、ピラニカ、ニッソランV、ロデイ、アニパース、テデオン、ダニカット、サンマイトなど数えていくときりがない。 これらを定期防除に組みこんで毎回散布するのである。効果の確認は散布後翌日ルーペで見るとはっきりする。消毒によってもともといる筈のないダニだが、なかなか根絶は難しい。居るかいないかの確認を毎年することになってしまう。

 灰色カビ病、ベト病は夜と昼の温度差の激しいところで霧の出やすいところ。盆地で昼の高温による水蒸気が夜の低温化によって飽和してしまう条件のところはベト病、灰色カビ病の出る条件を満たしている。このような地理条件のところはハウスだけではなく、露地も発生する。両病とも似た環境で発生するので、薬剤も共用できるようだ。リドミルMZ、アリエッティ、クリーンヒッ ター(ダコニール1000との共用は同一成分含むため避ける)、ダイセンステンレスなど従来のベト病薬剤のほかに、ストロビー、アミスターが新規に出てきた。他に灰色カビ病用としてスミブレンドを使う。アミスターは灰色カビ病にも特効を示す。

ト. 鉢の植え替え

 4〜5月にかけて新苗を植えたら、この時期は5〜6号鉢に白根が巻いている。もう一度8号鉢で2ピンチサイクル (約40日) させて8月中旬に10号鉢に本植えす る。用土は3月号3ページに。

3. リアルタイムでいくと

 これは非常に恥ずかしい話である。私流の手入れ記事に従い、4月初旬に非常な注意を払って第1回目の消毒を行ったが、どうも葉が変なのである。薬害が来ている。スミチオン 2,000倍とダコニール1000を2,000倍、それにダニ用としてピラニカをこれも2,000倍と、3種混合の消毒であった。ステムの葉で一番大事なところ、柳葉から3枚葉、5枚葉の上位がやられている。全体の1/3位である。

 これはもちろん今までにない経験である。毎年毎年少なくとも1回は必ず何らかの失敗はするが、手入れ記事を書いている身がこんなことではどうすると自責の念ひとかたならぬものあって、原因究明に当るが薬害を起こしやすい剤でもないし、複合要因でもない。要するに晴天の霹靂なのである。

 しかし、考えてみれば思い当たることが一つだけあった。それは潅水である。前日昼過ぎから翌日朝までエバフロー散水の止め忘れで約15時間潅水しっ放しだったのである。これが原因だ。これしかないと思った。

 わが植え床は他所様のように毎日潅水してもびくともしないというわけには行かないのである。そのために根が弱ってしまって一時的に転流を停止してしまったのではないか。そのため若葉が弱り、高濃度の薬剤が散布された情態になったのであろう。

 薬害を避ける条件は濃度、気候条件、時間帯だけではなく、樹自体が健全な成育環境にあるかを考慮し、散布されるべきである。特に消毒直前、直後の多潅水は避けるべきである。

 お陰で今年は薬害怖さのあまり消毒を糸目まで怠ったため、スリップスの来襲となり、とても個展どころではなくなった。全体の半分以上がやられてしまった。スリップスの恐ろしさを今年ほど体験したことはない。かくなる上は蕾を早切りし、2番花を早めに見ることでお茶を濁そう。


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