ばらと遊ぶ12ヶ月 7月
1. 季節のお便り
早いもので『ばらと遊ぶ12ヵ月』も半ばを越えることになります。暑いさなかですが、ばら作りもこの時期になるともう秋の花の出来も決まっているようなもの。しかし、そうは言ってもまだまだやるべきことは残っています。消毒だけはしっかりと押さえながら最善の手段を講じたいものです。
2. 秋の花に向けて
(イ)ばらの最も美しい時期
今年の岩手県花巻市の全国展は10月7日に決まっている。北は北海道、南は九州と日本は狭い国でありながら緯度が大きく異なるので一堂に会して美を競うことは出来ても地元の花が圧倒的に強いことは当然である。特に地図を見ればわかるように関東までの緯度はそう変らないが東北になると緯度がグンと立っており、咲く花も不思議なくらいに違うので、驚いてしまう。
10月7日というと九州ではまだ夏花である。暑い時期に咲く花は剪定から開花までの期間が短かく、花弁の成長が劣っているので十分満足のいく花にはならない。九 州では10月14日に支部展が行われるが、まだこの頃も残暑がきびしく佳花の咲く環境にはなっていない。それに最近は地球温暖化が急激に進んでいるからか10月下旬、さらには11月に入ってから佳花にめぐり合うことが 多くなっている。
(ロ)秋の剪定日ー開花日の関係
品種によって開花周期が違う。それをもっとも分りやすく説明図示してあるのは『ばらだより』492号(1998年 8月号)の小林氏のグラフであるが、10月14日までの図なので、これを全国展の行われる10月7日まで外挿してみたのが次の図である。
おびただしい品種名からE群を例にとって説明する。まず、全国展用としては剪定期日は8月29日、28日の両日に分散するように図示されている。九州展用には9月2日となっている。E群にはコンフィダンス、シー ジャック、魅惑、メルヘンケーニギン、ガーデンパーティとコンテストの常連が控えているので分りやすいが、あくまでこの表図は参考であって、自分のところの気候に応じて自分のデータをつかむべきである。
剪定してから開花までの日数はあくまでも目安にすぎ ない。剪定の部位が高い習慣の人は低い習慣の人より2日位は簡単に早咲きになることもある。極端になると1週間も違うことだってある。それより最も敏感に影響するのは気温の高低である。40日、50日先の温度を予測して剪定日を決めるのは実際には困難な作業である。
また、2月号で述べた開花積算日数の関係にも触れなければならないが、グラフの実線はちょうど10月14日が取れて、E群でいうと剪定は9月2日となっている。
これをあとどのくらい早めるといいかであるが、2月号の9ページのグラフで10月14日から10月7日までの積算温度は(18.4 + 19.8) × 7/2133.7日°Cである。
これを9月2日から遡り、あと何日遡れば133.7日°Cになるかを計算すればよい。図のように温度が直線に変化すると前提をおけば、計算は省略するが9月2日は26.4°Cになる。 これから133.7日°Cを割り出せば5日が出てくる。結局9月2日の5日前の8月28日が剪定日ということになる。
これはあくまで福岡の気候の場合である。地方独特の条件があるので記録を取ってグラフを作っておけば参考になるであろう。
(ハ)切り戻し剪定の期日
剪定関連の記事は実際は8月号が適当である。しかし、6月号にも述べた切り戻し剪定と同時に解説しようとなると今号にしなければ遅れてしまう。さて、切り戻し剪定の時期をいつにするか。
表図のE群を例にとると剪定は8月28日となってい る。これを19日遡り8月9日に切り戻し剪定をすると、前号にも紹介しているが、ソフトピンチでは2日ほど早く咲くので実際の切り戻しは8月11日に剪定をするとよいことになる。この時期に樹高90cm前後にちょうど頃合いの剪定部位があればピンチによって20cmは伸びるので結局剪定位置は110cm辺りになり、目標とする高さになる。
(二)ちょうど頃合いのステム太さについて
品種には剪定後に剪定枝より細くなる品種と大体同じの品種とや、太めになる品種がある。メルヘンケーニギ ン、コンフィダンス、シージャック、魅惑は切り戻し剪定後にソフトピンチしてやるとほぼ元の太さに返るか、気持ちとしてやや太くなる品種である。ただし、魅惑は剪定後頂芽より2段芽が強い負け枝現象を伴なう場合が多いので、注意が必要である。あけぼの、武州、ロージ・クリスタルはそのままの太さを保つ傾向があり、香久山、ガーデンパーティ、ノービー、マダムビオレなどは細くなる傾向が強い。
その品種が最も美しい姿を見せるステムの太さは大体決まっており、切り戻し剪定時のステムの直径は太め傾向の品種で6.5ミリ前後、細め傾向の品種で7.5ミリ前後が適当である。それに該当しないステムは大体において佳花の確率が低い。結局、その人の腕の良し悪しはこの時点でどれだけ良いステムが取れるかで決まっているようなものである。
(ホ)保険のための腹接ぎ
何らかの理由で下葉が枯れ込み剪定する部位が高くなっているようなときは樹高70〜80センチの所で腹接ぎをする方法がある。腹接ぎの部位は枝分かれしている方向と同方向が形成層が厚くなっていて活着しやすい。5〜10日後には芽が動き出すので腹接ぎしたすぐ上部で剪定するのである。保険と言った意味は腹接ぎした所からではなく、他の所から強い芽がでることがあるのでその時は強い方の芽を残すのである。これは遊びの要因が強いが何本かはやってみるだけの価値がある。
また、先に他の品種を接いでみることを勧めたが、面白くない品種に面白そうな穂を接いで楽しんでみるのも一興である。この遊びはうまくいけば次の発想の展開につながってくるのがいい。
(へ)消毒
効果が大きく常用の水和剤で汚れの目立つ薬剤の使用は切り戻し剪定後ピンチまでにする。基本的には切り戻し剪定までにすべての疫害、虫害は撲滅しておくこと。特にベト病、黒点病、ウドンコ病、ダニ害からは訣別しておくことが肝要である。ダニの媒介となる雑草もこれからは頻回に除去すること。
この時期でもっとも恐ろしい病害は何と言ってもべ ト病である。地球温暖化現象によって地域の特性が失われたり、変わった利する傾向もあるので、昼と夜の温度差が激しく、霧が発生しやすいところでは、まだ見たこともないところでもキュウリやメロンなどの栽培している地帯では、特に要注意である。朝露が葉柄について蒸発せずにそのまま曇天になり、気温が20°Cあたりで推移するような条件になると菌が爆発的に増殖し悲劇が発生するが、そういう条件が出来たとしても菌がいなければ発生はしないこと当然である。最近の新しいベト病薬でアミスター、ストロビーなどもある。間に合わせで1剤は準備しておくことを勧めておきたい。なお余計だがベト病菌は25°Cが24時間続くと死滅すると言われている。夜の温度が下がらない熱帯夜になると一応死滅することにはなる。