ばらと遊ぶ12ヶ月 9月

1. 季節の便り

 9月末から10月上旬のばら季節は春から夏にかけて愛培してきた成果が明確に表われる意味でもっとも胸のおどる時期です。花の出来はいかがですか。10月7日 (日)の全国展には参加されますか。九州では筆者の所属している福岡バラ会、九州支部展は次週の10月14日 (日)をはさんで行われます。開催地の都合で早く行われますが、九州の花も最近は次の週の21日 (日)よりさらに次の28日 (日) あたりがもっともいい花になるような気がします。

 コンテストは花を競うだけでなく、久方ぶりにお会いする皆さま方との懐かしい出会いの場でもあります。それはしょっちゅう会う地元の方々とはまた違った不思議な新鮮なものが湧きあがって来てとてもいい気分です。全国展には「夏花など持って行って勝てるわけがない。」のを承知で「せめて一太刀なりと。」の気持ちだけで東北の地に行くのです。何かを求めて旅をゆく。とても楽しいものです。

2. 花本番にむけて

(イ) 花の向きについて

 コンテストに出品するときに花の向きが限定されていてせっかくの花が出品できなくなることがある。人間の感性は不思議なもので、どこが正面かその花を見ると10人が10人とも共通してわかるものである。枝直し、支柱立てはどこが正面になってもいいように1本1本丁寧に行う。茎の直径が6.5cm前後のステムで葉が大きく堂々としているものは秀花になる条件を備えているので支柱するように。支柱の高さは必ず花首のところまでとし、それ以上の高さは花型を支柱のためにいびつにしてしまうのでやめたがよい。逆に支柱は極端に低くし剪定したステムをしっかりと固定するだけでその上は無くとも直立の花に仕上がるものである。固定の仕方はテープナーといってホッチキス状のピンでテープを結紮するものがあるので便利である。

(ロ) 雨よけについて

 花をどのように楽しむか。これは各人各様の問題であるが、せっかくこの日まで丹精したものだから最後の見せ場である開花時期には美しい花を見たいものである。そのためには雨よけ設備は必須条件である。雨よけ設備は栽培規模によって適宜決めればよいが、開花本数が数百本以上になると、傘では間に合わなくなってビニールシートを簡便に被せる方法にならざるを得ない。それも広くて70~80m2までである。

(ハ) ビニールシートの効用と弊害

 ビニールシートはこのように雨をしのぐのと同時に風の強さを和らげる役割も果す。風が吹くと葉柄が波打ったり、葉が傷むので花とのバランスを失ってしまう。あまりの強風だとシートを持っていかれる心配をしなければならないが、環境に応じて自在に出来るところがいいところで、100㎡を超えると取り外しがきかないのが泣き所である。これが秀花になる条件を損ねてしまう要因となる。

 開花時期のビニールシートのかけ方はさまざまである。いまは便利な骨材が安価に入手できるので、ぜひJAや付近の農機具屋さんに相談してみることをお奨めする。ビニールシートの弊害は何と言っても温度が露地に比し高くなり勝ちなことである。剪定して開花まで6週間、いつの時期にシートがけするのがベストであろうか。秋の日差しも次第に弱くなって行く時期であり、出来るだけねばるにこしたことはないが、一般に開花前2週間位が適当と思われる。

(二) 葉をゆったりと大きく作る

 ハウスの花は葉がきれいである。これは風を極端に避けて栽培するからであるが、さらにプラスして葉を大きくするとなるといろいろと困難な問題が出てくる。一般に光が強く、温度が高いと葉が小さくなるので、その逆をいけばいいことになろうが、光を強く(遮光する)温度を低くする(遮光すること、外気の遮断)などの自然界の条件を改善するやり方と、もう一方で栄養供給面で根部からの肥料その他の活性剤を利用する方法、葉面からの吸収に頼る方法が考えられる。後者の栄養供給面での諸説は多々あるが、いま一つ決め手がないようで、あそこのみわくの葉が大きかった。うちのはとても、という ことがよく聞かれるが、何故かとなると因果関係にまで 関連付けるまでにはいかないようで、結局その土地のそ の気候がたまたまそうなったのだと言うくらいにしか伝わらない。説得性に乏しいのである。ことしの春に筆者宅のあけぼので縦12cm、横8.5cmの巨大な葉が出たので自慢げに話したが 「うちもあったよ。 春の花の葉は大体に大きいものだ。」 と言われた。どの品種もかとなるとそうではないようであるが。

(ホ) 色を濃くする

 最近はメルヘンケーニギンの白ボケ現象はほとんど無くなった。特別の処方を加えたわけではないのだが、通常平均的にピンクが出るようになった。色を濃くすることが必須になるのはやはりなんと言ってもピンク系であ る。長雨があって湿度が高いときの花は白ボケが出やすいと言われてきたがそうでもなさそうである。pHを思い切り下げて鉄分やミネラル分を多く吸収させるように配慮したり、キト酸やアミノ酸のある物を与えるといいという話もある。活性剤としてアクセスというミネラルを多く含んだ波動水の話もある。いろいろ実験している がまだ説得性あるデータを出すには時間がかかるようだ。 

(へ) 黄色を強く出す

 東北、北海道地方で見る黄色系の花は九州で咲かせるどの花よりも黄色が濃く、花型も大きくなる。同じ日本でもなぜこうも違うのか驚くほどである。そう言えば最近は新聞の天気予報でも紫外線の強弱の予報が出ているようで、ばらで言うと紫外線の強弱が黄色の発色と相関を持つのではないかと思われる。

 環状剥皮といって、花首から60cm辺りのところのステムを環状に剥皮して栄養を制限することによって黄色を強調させる方法は以前から知られている。

 例えば筆者のこだわりの品種コルデスパーフェクタで一度だけ凄い花を咲かせたことがあるが、咲き終わった途端に株の根元から折れてしまった。カミキリ虫のせいである。残念で地団太を踏んだものだが、考えてみるとこれが環状剝皮法の原理である。

 養分の転流に必要な形成層の部分をどの程度いじめるとよいのかは一概には言えない。個々で工夫のいるところであるが、結果を出すためにはギリギリのところまで持っていくことが必要である。時期は糸目がきてから3〜5日後位がいいようである。なぜ60cmのところを剥皮するのかはステム1本1花当りを栄養制限するためとコンテスト出品のためである。

 また香久山、ガーデンパーティ、みわく、シージャックなど黄色を出すために糸目になってから茶封筒の帽子を被せて、5〜6日後、 つまり開花4〜5日前にそれを取るやり方は案外知られていないかも知れない。

 糸目の時期から遮光しても帽子を取れば結構ピンクは走るようである。まだやったことのない人は一度はやってみられてはいかが。花弁が弱くなるので蒸れないように注意しなければならないのは勿論である。あけぼの、パーフェクタなど遮光と同時に黄色を出す方法とも共通することがわかるであろう。

(ト) 葉柄と葉柄の間隔

 花首から花器の付け根まで50cmの中に5枚葉が3枚以上無ければコンテストに出品しても失格と言うおかしな規定があって、これにさわりそうなのがメルヘンケーニギンとあけぼのである。あけぼのなど日本作出花では代表的な花として世界にも誇れる花と思うが、どんなに美しく咲いても節間が長すぎて5枚葉が3節入らないときは失格というのである。決まりは決まりであるが、美の標準をこのように規定してしまうのは如何なものであろうか。

 これも一般的にであるが昼間の温度が低いと節間は短くなると言われている。また旧来から言われていた昼と夜の温度差が大きいほど秀花になる確率が高いという通説に対して、最近はデフ現象と言って実はそうではなくて差温は少なくて夜はもちろん昼も低いことが秀花の条件と言うことに変わりつつあるようである。秋の花でいうと最低温度18°C、最高温度も高くて30°Cとなると九州では標高800~1000mの高地栽培しかないということになる。現に切花の秀花は高地栽培で得られているようである。節間を短くすることと、秀花の条件とごっちゃになっているが、メルヘンケーニギンを例にすると実は同じことを言っていることに気がつくだろう。

(チ) 紫外線の苦手な花、 好きな花

 あけぼの、コルデスパーフェクタは花が焼けるのでハウスでは紫外線カットの資材で被覆するがそれでも十分ではない。花の焼け方はそれぞれの環境で差異があるので、個々の工夫によるが巾12cm、たて12cmの茶封筒を糸目の直後にかぶせ、コンテストの当日に開ける。

 紫外線がなければ花にならない品種の集団がある。これは紫外線カットのフィルムで栽培してみなければ分らないことであるが、丹頂、アルテス75、ダブルデライトなど弁端に紅の走るのがトレードマークの品種である。これから新たにビニールシートを使ってみようとされる方はよく検討して使用されるがよかろう。

(リ) 葉の汚れについて

 春にも書いたが、開花のときに肝腎の葉が汚れていたのではせっかくの花が台無しである。葉の汚れる水和剤の使用は剪定して新芽の出る時までとし、この時期以降は避けることにしたい。剪定までの夏の時期に葉を落とさず、黒点病は勿論のこと、ダニもウドンコ病、ベト病 もなく完璧に近く管理してこられた方はこれからは濃度も極端に落として1,000倍使用の薬剤は2,000倍程度に薄めて、葉を汚さない薬剤、乳剤またはフロアブルタイプのものに切り替えても大丈夫であろう。

(ヌ) スリップスの対策

  せっかくの花がスリップスにやられて泣く事のないように、糸目のつく直前に2サイクルはスリップス対策を講じること。薬剤は定着しているものとしてはやはりオルトラン。これは2,000倍でよい。水和剤なので葉が汚 れないように希釈する。それに5月号でも紹介しているがフィトンプラスも有用である。フィトンプラスはフロアブルタイプであるが、これも2,000倍でよい。誘引剤であるから、スリップス防除剤、例えばスピノエースの5000倍液を混ぜて使う。スリップス防除のために2剤を使うのは不経済という趣もあるが、2回を1回で済ませることができるので、トータル的には変わらない。

3. (コンテンツを省略)

4. リアルタイムでいくと

(イ) 横倒しによるシュート出し

 みわくもメルヘンケーニギンもあけぼのもシージャックも福島氏指導による西村ばら園の新苗の出来は6段、7段と上がっており、高さ2.5メートル、葉数は40段にもなっていた。誰もが眼を見張るほどの出来である。
ところがシュートの出がどうもおかしい。どの品種も1本出ていいところ。出ていない方がどちらかというと多い。どうも計画のようにはいっていないようである。これが6月末の状況であった。そこでやむなく横倒し法によってシュートを確保することになった。

 写真1

 写真1はメルヘンケーニギンである。わかりにくいので横倒ししたステム2本は写真の上をマジックインクで なぞっているが、根元近くに5本と先端部に2本計7本出ているのがこの株である。福島氏は亡くなられた水戸市の近藤氏がかねてから横倒しについてノウハウを持っておられたようなので、これについての新奇性はなく、紹介に値しないというが、あまりにも劇的なので紹介した次第。

 ついでに筆者がことし春の剪定時にニューメルヘン (ミスターコジマと同じと思われる品種) の樹勢が余りにも強いので、極端に低く剪定することが残酷な気になって、横倒しにしているが、 佳花が30本以上は採れている。写真2である。

 写真2

 隣りの、また隣りの領域を侵犯しているので、単位面積当りの開花本数では変わらないかも知れないが、樹勢のつよいものは強剪定していたぶるよりは1.5メートル〜2メートルを倒して咲かせる方が自然に逆らわなくてよさそうである。ただちょっと手間がかかることと、景観を損ねるというマイナスはある。
横倒しに向きそうな品種は当家ではメルヘンケーニギン、マダムビオレ、レッドライオン、ゴールデンハート、あけぼの、武州などである。

(ロ) 新苗のシュート出し

 このように横倒しによるシュート出しは新苗の栽培法にも適用できるのは勿論である。鉢植えも地植えもシュートを最低2〜3本は立たせたいがなかなか出てくれない場合が多い。そのときはどうするか。 新苗入手以降6月一杯までは新芽をピンチピンチで繋いでいき、 (このときシュート以外の脇枝は摘み取り1本で上げてゆ くこと。) 段数が30段以上になったところで横倒しするのである。段数は多ければ多いほど良い。横倒しの方法は図による。

 図1のように支柱1、 支柱2、支柱3で苗を刺激しながらまげてゆく。刺激した方がシュートが出やすい。特に根元付近のシュートがほしいので支柱1の役割は大きい。このとき接ぎ口から折れてしまうこともあるから注意を要する。支柱4は先端の固定に必要である。図2はどのように曲げるかの説明であるが、 1が最適のようである。高さ50〜70cmにしている根拠は曲げが大きいほど根元にシュートが集まりやすいこと、6月末から2〜3回ピンチができる高さであることなどである。鉢植えの場合は支柱が立てられないので理屈だけを採り入れて各自工夫されるように。

(ハ) 捲土重来を期す

 巾3.4m、奥行き7m、高さ3m、 栽培品種シージャックだけ。ご存知門司の海賊・上森氏の新装なったばら園である。写真3は驚くなかれいずれも新苗である。どの株もちょうど咲き頃のステムが3本5本は立っている。7月15日の撮影だから、いまではもっと良くなっている筈だ。上森氏は以下のように語った。

 写真 3

上森:「10年前ころから住宅が密集してきたため、消毒ができなくなってハウスにしたが、側面、天井を開けても温度は下がらず剪定後32日、33日で咲いてしまう。今年になってこのミニハウスを作ることを思い立った。陽光をカットするビニールシート張りっぱなしのハウスでは本来の色にはならない。昔のコンフィは色が違っていた。パールとピンクが陽光に照り輝いていた。ガーパー、シージャックも白いのはウソだ。」

上森:「もう一度原点に返り、いい色を出したい。この設備は自然光で屋根はオープン。剪定後風を防ぎ、夜露に当てないようにビニールシートをそのときだけに被せる。昔は2週間前に張っていた。広いビニールを張りっ放しにしてからダメになった。」

上森:「それから、福島氏の鉢栽培がばら栽培の究極であるかのようなイメージが伝わっているようだが、ほとんど化学肥料に頼った栽培である。昔は有機栽培で元肥を作りゆっくりと作っていた。水持ちは良いし、地力はまた凄かった。それを再現させて福島氏の養液栽培と土耕有機栽培との競争をするのだ。露地が鉢栽培に負けるのは情けないと思う。昔はコンテストに持っていく過程で段々よくなっていた。水でよくなるのだ。ことしは夏花だからともかく3年以内には答を出したい。」

以上


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