ばらと遊ぶ12ヶ月 8月

1. 季節の便り

 去年は、剪定する時期には高さ2メートル以上のうっそうと生い茂ったジャングルになっていました。ばら作りはそんなもんだと思って高さがあるほど佳花に巡り会えることが多いと迷信を信じてやってきました。 ところが上が繁るほど下葉が黄色くなって落葉していました。結局、何のための樹高か意味を取り違えていたのです。高い樹はいきおい高い所でしか剪定が出来ない。秋の開花はメルヘンケーニギンなど高い樹で2メートル40cm以上の所になっていました。これでは作業能率が極度に悪くなります。

 去年はもっともやむを得ない理由がありました。わたしもばら仙人でめしを食っているわけではなく、一応世俗的な生活もしております。わたしの住む南関は山間盆地で結構住めば都です。その南関町に大型ごみ焼却炉を建設するというとんでもない話が降って湧いてきたのです。計画は遡って1年半前からあったということです。それを行政が住民にまったく知らせずにごり押ししてきたのです。そのような行政の姿勢に対して、わたしたちは今回だけは住民パワー超党派で怒りました。

 プラスチックや食べかすや赤ん坊、老人のおむつなどから出る塩素化合物一切合財を燃やしてしまうという化学工場はありません。それが経済性無視で一般家庭ごみや産業廃棄物処理の世界ではあるというのです。夜も眠 れないほどの反対闘争をしました。体を損ねるほどの無理をしてやっとのことで白紙撤回にまで追い込みましたが、よく考えてみると、じゃあ、いま捨てているごみをどうするのかという命題は残ったままです。恥ずかしい話ですがどのように処分されていたかこれまではまったく無知でした。

 そういうことで、ばらは病気だけは出さないように消毒だけは励行してきましたが、仕立てなどは放ったらかしにしていたのです。今年は公園ばらのように低く仕立てることを目標に、ごみ問題も落ち着いたので去年とは随分違っています。

 そのためではないでしょうが、みわくには例年は6月25日現在では既に煤病というか、擬似ベト病とでもいうのが葉に付いていたのが出ておりません。ちょっと横道に外れました。

2. 剪定の時期になすべきこと

イ. 消毒

 10月の開花時期に入ってからの1ヵ月間は希釈濃度は極端に低くしなければならない。そのために、花のきていない今の時期に十分に殺菌、殺虫を行っておくように。特に注意しなければならないのは、以下のようである。

a. スリップス

 オルトラン、アクテリック、スミチオン (乳)、アファー ム(乳)、カスケード (乳)、モスピラン、ベストガード は花萼ができて糸目割れのしていない時期までに散布することが肝要で、糸目の段階で蕾が黒くなっていたら、スリップスがいることがわかる。こうなればちょっとの害でも花型は崩れてしまうので蕾をもぎ取る以外ない。哀れである。糸目が来る前に7〜10日間隔で1,500倍で消毒する。花期が来たら乳剤を2,000倍まで希釈して使うとよい。水和剤は葉が汚れる。

b. 灰色カビ病

 別名ボトリチスといい、我々はボトボトと略称している。ハウスで湿気の強いところでは必ず菌が存在するので大きなハンデイを負う。ばら業者によって極端に日持ちが違うのはボトのせいであるという。露地でも開花したときに雨に当ると花弁を損ない極端に花持ちが悪くなる。直径0.5ミリくらいの、花に小さくやや膨らんだ黒い点ができるが、これも灰色カビ病である。ストロビー、スミレックス、アミスター、セイビアを使う。希釈濃度は通常の1,000~2,000倍濃度ではないものが多いので濃度を間違えない注意が必要である。雨が続くときには必ず施用をすすめる。

c. ベト病

灰色カビ病と類似した菌体であるため、 ベトとポトは 大体同じ薬効を持つものが多い。 参考までにわたしが 使っている薬剤でどうなるかを記す。 これによってもポ リキャプタンが昔から優れた薬剤であることがわかる。

尚、X印は他の作物にも適応登録がないものである。 (フ)はフロアブルタイプ。 他は水和剤。水和剤は花の時期に散布すると、葉が汚れるのでどちらかというとフロアブルタイプが望ましい。フロアブルタイプも乳剤ほどではないが、水和剤よりはましである。

d. 葉ダニ

 ダニは古葉に寄生することが多いので、剪定前か新芽の出る直前までに撲滅しておくとよい。耐性がつき易いので次々に新製品が出るが、最近の農薬ではビルク (水)、バロック(7)、コテツ (フ)、マイトクリーン (フ)、コロマイト(乳)、アニバース (乳)などが出ている。効くところは何を使ってもよく効くが、効かなくなると迷路に入ってしまうのがこの世界である。

e. 黒点病、うどんこ病

 最近の殺菌剤は黒点病に効くものは、大抵の場合、うどんこ病にも効くようだ。 ハウスでは黒点病には罹らないがうどんこ病は罹りやすい。

 黒点病のミラネシン、うどんこ病のミラネシンは治療特効薬で、いざというときに使うために常備するが、通常は他の薬剤を使うようにする、というのが福岡バラ会の指導方針である。両剤とも無数にあるのでここでは省略する。

 
f. 葉焼け

 消毒した直後に薬害が発生することがあるが、これとは別に、葉焼けの現象がある。これは概して若葉に多い。曇り空が続き、急に晴れ間が見えるようなときに葉焼けが起きる。 品種ではコンフィダンス、シージャック、マダムビオレ、レッドライオン、ビッグチーフ、レデイラックなどが起こしやすい。中でもコンフィダンス、シージャック、マダムビオレは発生著しい。最近は天気予報の中に紫外線照射の指標が載るようになったが、分っても間に合わないことが多いようだ。 一応、潅水すると回避はできるようであるが、どの程度やればいいかさじ加減がわからない。地上部と地下部の水バランスが著しく狂ったときに葉が必要とする水分を自然界に取られてしまって、復元できない状態になってしまったことを葉焼けと言うのだろうが、葉水するくらいしか思い浮かばない。葉焼けはこれもハウス栽培に多い現象である。

ロ. 灌水

 わたしのハウスでは水分が不足すると、植え床が硬くなり、ツエが立てられなくなる。灌水はそういう時期にすることにしている。露地栽培では降水量が多過ぎるときはもちろん降られっぱなしでコントロールすることはできない。排水の悪い植え床では大雨時に水はけが出来なくて根ぐされを起こして、葉が黄色くなって落葉してしまうことがある。適度の水分調整は必要であるが、雨が終日降っても決して灌水しない植え床もある。

 露地での問題は雨の少ないときである。灌水の目安として1週間に坪当り100リットルが大方の目安である。そのうち雨でどれだけカバーしているかを計算して不足分を補うことを考えるといいのであるが、植え床は個々の土壌条件であり、これ以上踏み込むことは出来ない。

ハ. 施肥

 今年1月号に書いているように、1年分の肥料を一発型で施肥しており、追肥の必要はない。潅水しさえすれば、必要量だけばらに供給されることになっているので、いわば肥料は常時植物は消費していることになる。この完全有機質ぼかし肥料はこんどは「趣味悠遊」という名前で世に出ることになった。もちろん、この肥料は ばらだけではなく、他の作物全般に使われる。

3. 開花日を目標に剪定する

 今年の全国展は10月7日に花巻市で行われるが、その全国展に向けてコンフィダンス、シージャック、メル ヘンケーニギンなどを例にとって、切り戻し1回剪定の方法を7月号で説明している。

 前号に続き、一般的には剪定ー開花サイクルがどのような関係にあるのか少し実証的に考察してみたい。表にしてみたが、資料が膨大になったので、細かい字で申し訳ないが忙しい方はまとめの所だけは目を通してほしい。

a. 表1について

 表1は1999年秋のコンフィダンスの剪定ー開花の記録である。9月1日から福岡管区気象台の最高最低気温、平均気温、平年気温の最高温度を10月31日まで取っている。 また自宅ハウスの気温は10月1日〜10月31日まで記録してある。 そしてそれを背景として剪定を9月4日から随時9月22日まで行い、それぞれの開花までの日数を記録したものである。

 この年は全国的にも平年より高温が続き、地球温暖化現象が恒常化したかといわれるほどの年だった。 剪定を始めた9月4日からの5日ごとの対平年度比の気温は次のようである。

 このようにすごく暑い年であった。そのため、開花を一点集中で剪定しているところは花無しのため気の毒なほどで、次週の花がやっとその時に間に合うというのが実態であった。

 ハウスの温度は10月にはいってからの記録であるが平均気温としては気象台気温と変わらないが、最高気温 最低気温で別々に取り出してみるとやはり大きな差が出ることがわかる。

 ハウスは露地栽培に対し、ほぼ2日ほど早咲きだと言われている。最高温度の違いが原因しているのかもしれない。

 さらに2月号で書いた積算温度と開花の関係だが、平均気温で取ろうとすると、9月のハウスのデータがない。そこで平均温度としてはたかだか0.4°Cくらいしか違わないので気象台平均温度を0.4°Cシフトさせてみたが、そうして作った到花積算温度では10月中旬まではほぼ960〜970日°C、それ以降は1,000日°C以上になっている。この点については後述する。

b. 表2について

 表2は 2000年秋のコンフィダンスの剪定ー開花の記録である。9月1日から11月30日までのハウスおよび福岡管区気象台の最高最低気温とそのときの開花状況を調べてある。これからいろいろのことがわかる。非常に貴重なデータである。前年の気候は平年比で高温で推移したが2000年はほぼ平年並の気候条件であった。気象台の最高温度も平年比で見てみても誤差範囲で推移しているとみてよい。

 1999年では9月、10月の差異計が129°Cだったのがわずか27°Cである。

 一方、ハウスと露地の温度差は月別で見ると以下のようである。

 このように最高温度比ではハウス気温は1日平均3°C以上高いが最低温度では3°Cほど低い。平均気温ではほとんど同じでも昼と夜の温度差が激しい結果となっている。

c. 表1と表2のまとめ

1999年の暑かった年と2000年の比較的平年に近い年のデータによって、剪定ー開花の関係に迫ろうというのが本稿の目的である。

① 剪定時期に開花日を予知することはできない

 まず、剪定する以前の気温が高かろうが低かろうが大きな要因ではないと思われる。これは大事なことであるが、以上2年のデータで大体確証が得られるのではないだろうか。

 次に、開花日をある程度正確に予知するには正確な長期気温予想が必要となってくる。 最近は1週間規模のものなら気象衛星の活用でわりと適確に出ているようだが、1か月半の長期予測はまだ不可能のようである。

② ではどのくらいの確度で予測できるのか

 1999年はたまたま、稀に見る高温で推移した年であったが、逆に低温で推移する年もないとは言えない。1999年、2000年に関して言えば、開花の分散はこの図のようになる。

 第1図は縦軸に剪定から開花までの所要日数を取ったものである。同じ日に剪定したものが開花までに4〜9日も遅れていることを示している。この図をこんどは縦軸に開花日を取ったのが第2図であるが、この傾向はもっと明瞭に表れる。1999年の全国展は大阪で10月24日に行われている。10月24日に開花させるためには通常なら9月8日の剪定でよかった筈である。ところがこの年は10月15日には咲いてしまった。この気候だと9月11〜12日の剪定のものでちょうどよかったことを示しているが、あとの祭りである。そのため主催地の大阪の世話をされる方たちは大変な苦労をされたことはまだ記憶に新しい。

 この傾向は関東でも同じだったと記憶している。ただ関東の場合はその翌週以降にもばら展が行われるので、その花が大阪に来たことは言えるかも知れない。九州では逆にその1週間前に支部展が行われているが、そのときにちょうど全国展用の花が出品されたことになる。

③ 結婚式場に是非にと頼まれたとき

 このようにばらの開花を目標点に着地させることは神業に等しい。一般に気候条件は平年並だと前提して剪定をする以外にないが、結婚式場の飾り付け用に友人から是非にと頼まれたときはどうするのであろうか。どうしてもこの日に咲かせなければならない。もし、咲かなければ申し訳ないでは済まない。自分のプライドが許さないと言うならば、それこそ大規模に分散して剪定する以外にない。この図から判断すると4日から5日は片側で分散することが必要で、平年比で寒くなることも考えなくてはならないので、少なくとも中心から前後4日合計8日は分散させなければならないという、とんでもないことになる。

 われわれは、1999年の気候状況は稀な例であると決めて、例年はそう極端には違わない筈だと決めてかかって中心日から2日前、2日後、つまり5日の中で分散剪定しているのが一般的であるが、今年の花巻市での全国展は初秋といってもまだ九州では夏花であり、剪定は毎日少しずつ剪定をしていく以外にないというのが結論である。

④ 開花積算日数について

 7月号では10月14日までの剪定ー開花曲線を10月7日開花にするためにあとどれだけ剪定を早めるといいか、積算温度の考え方で説明した。
さらに2月号では秋の開花積算温度がほぼ940日°Cで 推移すると仮設を立てて説明した。

 この考え方を表1、表2で確認してみた。 数値に関して言えば、940日°Cになっていない。 表1は9月データが外挿数のため信頼できないが、 960〜980 前後であるから数値としては大体合っている。 しかし、信憑性からいうと表2の方が安定的である。表2が合っていなければならないがこれが合っていない。何故か。どこが違うのか検討を加えた。

 理由は間もなくわかった。表3はハウスの平均温度と気象台の平年ベースの平均気温の比較である。1999年で9月〜10月2か月間の温度較差は1999年で196°C、2000年で153°Cである。剪定後40〜50日で開花するのでその2/3もしくは3/4はハウスが高く出ることになる。これまでうたってきた940日°C説は気象台気温がベースになっているので矛盾は起きていない。むしろかなりの裏づけが取れたようにもある。何故気象台平年気温をベースにしたのか普遍性があるからであるが、危うく私自身も錯覚する所であった。

⑤ 未熟児と成熟児

 1999年は表3でもわかるように、積算温度は800°C日台で明らかに未熟児である。これはばらは900日°Cにならなければ咲かないのではなく、花にはなるが佳花にはならないということであろう。一方2000年はやや気温は高いがこの位の気候は許容出来ると見えて、かなりの時期まで940〜970日°C台である。

 以上で1999年、2000年の剪定ー開花の説明を終るが、最後にこのデータは九州ばら研究会の皆さんの協力により作成したものである。 諸氏に感謝します。また、本資料を作るに当り、必要に迫られて初めてウィンドウズのエクセルを使った。初心のため、出来映えが悪いがお許し頂きたい。

 

4. リアルタイムでいくと

腹接ぎのその後の経過

 1、2、4、5月号とくどいように書いてきた腹接ぎの関連記事であるが、結果は一体どうなっているのだろうか。言いっ放しでは無責任である。その後の経過を書いてみよう。

 接木は腹接ぎ芽接ぎ合わせて587本接いでいる。そのうち240本活着し、あとは接木芽以外のところから出ている。 接木合計587本に対して活着数533本は約1割減であるが、今現在では補完枝 (シュート枝) が増してほとんど変わらない数値になっている。主な品種毎の集計をしたのが別表である。

 これによって次のようなことが経験できた。

  1. ゴールデンハート、マドーナ、キャプテンハリーステビングスなどは活着が極端に悪い。これらはわがばらハウスでは最も樹勢の強い品種であるにもかかかわらずである。どういう根拠からであろうか。
  2. 魅惑、ノービー、あけぼの、フロージン82、メルヘン ケーニギンも活着がよくない。しかし、一方で腹接ぎしたステムの他所から新梢が出てほとんどカバーできている。これは極端に深剪定をしても新梢が出ることを示している。
  3. 例えば、高いところで剪定する傾向の強い品種、あけ ぼの、メルヘンケーニギン、マダムビオレ、武州、ゴールデンハート、レデイマリーなども低く仕立てることが出来ることがわかる。欄Bを補完枝と言っているが実際は保険枝である。 (レデイマリーはツルブルー ムーンに接いだため、レデイマリー自身に接木は3本しかしていない。結果は全滅で補完枝は上部に出て下部には出なかったのが気にはなっている。)
  4. ツルブルームーンは活着力が旺盛でトゲも少なく、スタンダード仕立てにも使用出来ると思われる。
  5. 紫野もツルブルームーンほどではないが、樹勢の比較的弱い品種の台木として使って有効である。
  6. 冬の芽接ぎは活着し難いことがわかった。芽接ぎ29本のうち、活着したのは僅かに4本。それもツルブルームーンで3本、紫野で1本であとは全滅だった。 冬の休眠中は樹液の移動が停滞しているためかと思われる。
  7. 以上、この試験はすべての品種を春には見下ろすように咲かせ、秋には頭をちょっとだけ出る高さに咲かせ ようとする目的で始めたものであるが、この結果によって1本独鈷になっている樹もほぼ安心して低く仕立て替え出来ることが確信できた。あとは秋の花の良し悪しである。

写真のその後

 写真 1 あけぼの
 写真 2 cl. ブルームーン
 写真 3 紫野
 写真 4 ゴールデンハート
  1. あけぼの 4月号。2は活着しなかった。去年4本立ちが今年は3本立ちに減った。シュート出しはその後に期待。
  2. cl. ブルームーン 4月号。 腹接ぎで8本、7芽接ぎで3本。うち活着は腹接ぎで7本、 芽接ぎで3本。新梢が2本出たが、切り捨てた。
  3. 紫野  4月号、2月号。ダイアモンド ジュビリーは活着せず。シャルルマルランは元気のいいステムで楽しんだ。手前に新しいシュートが出ている。そのためか接ぎ穂の勢いはやや鈍い。新しいシュートに は自木では暑気に弱いと言われるチェリオを接いでみた。
  4. ゴールデンハート 2月号。1本独鈷は全滅。ちょうど頃合いのシュート芽が6本出てくる。

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