ばらと遊ぶ12ヶ月 10月

1. 季節の便り

 楽しかった花遊びももう峠を過ぎて、残花に期待をかけて1日1日を迎える時期になりました。どうでしたか。凄い花にめぐり会えましたか。HTの完成された美のなかで、ことし春先に咲いたチェリオという可憐に愛嬌を振りまく花が目の前にチラチラと行き来しています。夏は暑さのためかステムが真っ黒に枯れたようになり、とても大変のようですが秋剪定からどう変わるのか、元気に咲いてくれるのか。秋も見てみたい。実は去年の秋にも我が家にはあったのですが、そう強い印象は残っていませんで、強烈だったのはことしの春です。とても不思議な花です。チェリオもHTなのでしょうか。今夏、腹接ぎで咲かせようと例の紫野に接いでみましたが、4芽とも活着できませんでした。やはり夏は木がへバるからなのでしょう。

2. 秋の2番花を咲かせるつもりで

 ことしの全国展が10月初旬に行われたこともあって、当地九州では開花後の管理さえうまくやれば、もう一度咲かせることができるようだ。温度が下がり、夜温も10°C以下になると、開花日数も極端に長くなる。これはちょうど春の剪定ー開花積算温度と逆の傾向である。9月初旬剪定から10月中旬開花で42日で咲く品種が10月初旬の剪定では開花まで70日80日とか更には正月過ぎてもまだ蕾のままというものもある。これらはすべて気温、特に夜の温度降下によるところが大きい。

 ハウスばら栽培では昼間は晴れているときは結構温度が高く、12月に入っても、30°C以上になることもある。問題は夜の温度であるが、ばら業者の管理温度は18°Cから19°Cに設定することが多いようである。ハウスの夜間温度は加温しない限り露地より1°C〜2°Cは低くなるようである。日中気温は熱が逃げにくいだけ問題なくハウスに分がある。これらから総合的にみて10月末からの開花はハウスの方が咲かせやすいかもしれない。

(イ) 普段と同じような消毒体系を

 毎年のことだが、秋の花が終ってしまうと消毒はつい翌年の正月過ぎ頃までいい加減になってしまう。低温になると病害虫の活動も緩慢になるので消毒頻度も少なくて済むが、ゼロで済ますわけにはいかない。

 虫害で依然活動を続けるのはやはりスリップスであり、ダニである。これらは花の時期に花を咲かせるために夢中になり、消毒がややおろそかになっているだけに、侮ってはならない。また、病害にしても灰色カビ病は昼と夜の温度差がはげしいところほど朝露が多く、湿度100 %となり蔓延する条件はそろっている。ウドンコ病、ベ ト病にしても同じである。ただ、黒点病だけはこの頃の温度では発生しないようである。

 消毒は地方に応じて花が完全に終るまで、 葉を汚さない薬剤を使う。

(口) 大事な潅水

 ここ2、3年で落葉の時期がずっと遅れてきて、西南暖地九州では剪定の直前まで葉を保っている樹が多くなっている。 気持ちのセイかもしれないが、地球温暖化とつい結びつけてしまう。 葉が落ちないということは、まだばらも休眠期にさしかかったというより、白根はまだ活発に活動していることであり、従って潅水も必要になってくる。 いまも冬期になると葉を毟り取って、 強制的に休眠状態をつくるノウハウがあるようだが、この方法は冬にだらだら落葉するのが汚らしいので樹の生理を無視して人間の都合で作業をしているような感じがする。ここらは地域的な条件が大きく左右するところと思う。千葉県以北、東北、北海道には住んだことがなので、もちろんばらの生理など知る由もないが、わたしは翌年のばらの勢いをつけるためにも緑の葉がついているのならとことんまでつきあってやる方がばらのためだと思っている。

(ハ) 施肥について

 冬の元肥は一般に12月から1月初旬にやるのが定説となっているようだが、わたしはこの考えに疑問をもっている。ミカンは常緑樹だからばらと同じというわけにはいかないだろうが、葉のあるうちに翌年春の新芽を活発に出させるように収穫後の礼肥えに重点を置き施肥する。その方がオーキシンが多く根部に蓄えられるということを文献で読んだことがある。葉がないときに施肥してもあまり意味がないような気がする。もちろん人間の都合でいうとばら作りは冬が一番ひまな時であるから、適当に春に間に合えばよいという程度ならわかるのだが。だから、ことしはお礼肥えと元肥を考えて11月中に施肥することも考えてみたい。

 それと、ことし夏から秋にかけて葉色が段々と淡くなっていてクロロシスが目立つようになったところは多分堆肥の多量投与によってpHが上がっていることが考えら れるので、葉のあるうちに硫黄コーテイングの肥料を元肥に使うことをおすすめする。 (ことし1月号を参照)

(二) 冬の生け花用にする

 秋の2番花まで咲かせるもう一つの目的は葉や花、蕾をお正月の飾り花として使うためである。松竹梅の飾りもいいが、ばら愛好家にとっては咲きかけて糸芽が過ぎて萼が下りたガーデンパーティの赤まだらの色合いやレデ イマリーの花びらの展開しそうでまとまったままの何ともいえない風情など多くの品種の持つさまざまな色、形が感動を呼ぶものである。病気のないばらをお正月まで育てる意義は実はこういうところにもある。

3. 春の開花と積算温度の関係

 本誌2月号で「国際バラとガーデニングショウ」開催が例年5月20日前後に開催されるようになったが、 九州など緯度の低いところでは5月10日前後が最盛期になるので、開花時期を5月20日前後に調整できないか積算温度でアプローチを試みているが、その結果を説明したい。

 表はハウス栽培のメルヘンケーニギン10株の5株を3月3日に剪定し、あとの5株を3月20日に剪定したその中心値のデータである。この表を見ながら皆さんの初春の庭ばらを想定しながら一緒に考えていただきたい。

 まず、剪定前後の最低温度の推移である。平均的には徐々に上昇してはいるが3月3日剪定の温度推移はほぼ1か月以上は10°C以下が続いている。3月20日剪定でも10°Cを超えている日が僅かにはあるが、概ね類似した傾向にある。

 こうした条件のなかでまず、平均温度による積算温度の比較をしてみた。3月3日剪定5月12日開花の積算温度は1334.5°C日であるのに対し、3月20日剪定5月21日開花の積算温度は1274.5°C日である。かなり大きい開きである。

 また、3月3日剪定から3月20日剪定までの積算温度は248°C日であるのに対し、5月13日から5月21日までの積算温度は188°C日となっており、これも大きい差が出ている。

 ともにばらの成育活性が極度に落ちるといわれている10°C前後を境にして平均温度の考え方を変えなければならないことを示している。秋の気候は10°C以下になることは九州では稀なので使えるが、春先は平均温度では使えないことが分かる。当然であろう。実際には時間ごとに温度がどう変わっていくかを記録し、有効時間ー温度の関係を見つけ出す作業が必要かと思う。来年度以降の検討課題として残しておきたい。以上


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