ばらと遊ぶ12ヶ月 11月

1. 季節の便り

 早いもので 「遊ぶ12ヵ月」 も残すところ僅かとなりました。その間、新しさを追っかけて今までと違った内容を、と肩の力も抜かないで直球勝負で来ました。そのせいかあちこちで反響がありましたが、自分としてもいい経験をさせていただきました。

 これからあとの冬期の部分は各地の気候特性が大きく影響するため多種多様と思いますが、西南暖地九州ではということで参考までにご一読頂きたいと思います。1年もの長い間お付き合いいただきありがとうございました。

2. 採り入れそして冬支度

(イ) 消毒はまだ手を抜かない

 11月末になると東北地方以北は冬支度で大変と聞くが、ここ南国九州でもすっかり寒くなり、そろそろ樹種によっては下葉から落葉が始まるものもある。美しく楽しませてくれた花が最後の力をふりしぼるように精一杯に咲こうとするときに感動を覚えるが、その中で時に消毒の不全のためにせっかくの咲いてくれた花に灰色カビ 病やスリップスが来ていると申し訳ない気持ちになるのは筆者だけではあるまい。

 先月号にも書いたが、消毒だけはしっかりと行い花を見捨てないでせめて蕾でもいいからお正月の生け花に使うことなども視野に入れる。その方が最後まで病害虫を避け、翌年の花のためにもいい。年内まで消毒をし、新 年度以後に楽をする。こういうパターンはどうであろうか。

(口) 施肥と樹勢について

 ことし、近郊でばらを作っているところをあちこちと見せてもらった。大体において栽培者が健康であればばらも元気である。これは不思議な現象である。筆者は体力と施肥と樹勢には相関があるような気がしてならない。どこかがアンバランスになっていくのではなかろうか。最も大きい要因は土壌の空隙率、pHと栄養バランスだと思う。樹の活性を維持するためには毎年毎年一定量の酸素を根に送り込まねばならないが、肉体老化にともなって樹への世話が届かなくなっていはしないか。pH の上昇と微量要素を含む栄養バランスの欠如が土壌の疲弊化と相関していると考えるが、永年の施肥をめくら運転で管理したためにその副作用が出てくるのであろう。筆者はいま60才であるが、先輩方からするとまだ 「鼻たれ小僧」である。だからこそ荒治療もできる。問題はこれからである。

 土壌の老化はよほど管理がうまくなければ間違いなくやってくる。ばら栽培者にとってのばらの老後の保険とは何なのだろうか。切り花業者で露地栽培をしている人の多くは剪っては咲かせ、切っては咲かせの連続であった。バブルのはじける前後を境にしてバラの価格が暴落し、倒産を余儀なくされた人たちは大抵は収量の減少と品質の劣化を抱え込むことになった。収奪農業のつけが回ってきたことになるが、ロックウールによる水耕栽培にも乗らず、いまも地道に露地ばらを栽培してきた業者たちの多くは一度にあまり収穫しすぎないこと。無機質肥料を多用しないこと。株の世代交代 (更新) は極力さけることなどを気遣っているようだ。これらはすべて土壌条件のバランスを保つことに配慮しているわけである。われわれアマチュアの栽培家も同じ心得が必要であ ろう。つまり、土とながくやさしく付き合うことを心が けなければならない。

 一つの方法としては元肥のときの同時土替えがあろう。輪状施肥にせよ、樹間施肥にせよ必ずその部所に新しい土壌と入れ替えてやるのである。 入れ替え土は多ければ多いほどよいのは当然であるが、ことしは6畝あるハウスの1畝の植え床の土を15cmほど通路に移し、代りに小長井の赤土を入れ替えようとしている。施肥関係の考え方はNo.532号をもう一度読んでほしい。

 体力が弱ってきた方の処方箋であるが、まず土壌管理を日常作業の項目につけ加えるくらいの気持ちに切り替えることが必要と思う。そのために近くのJAを利用して土壌のpH(ペーハー)を検査してもらうことを勧める。pH は5.5から6までである。大抵の土壌はばら栽培が長いところほど6.5以上になっており、赤信号が出ている。これは堆肥を多く施用したためにカリウムが多く蓄積し、リン酸の活動が鈍くなり新しい白根の発生が制限されるようになるからである。その傾向は葉の緑がうすくなる欠鉄症 (クロロシス)の多発で証明され始める。もちろんクロロシスの出やすい品種たとえばマダムビオレ、クリスチャンディオール、アルテス'75などもあるが、一般にpHが高くなると鉄分やカルシュウム分の吸収が悪くなるからである。

 堆肥は土を膨軟にするためには必要な材であるが、年々多用するといくら赤土の豊かな土壌でもpHが上がっていくから、たまには酸性成分の補給が必要となる。入れ替え土は赤土系の酸性土で水はけのよいものが好ましいことは言うまでもないことである。

(ハ) 鉢の土替え

 今後、ばらの鉢栽培は大きな発展を遂げると思う。その根拠は新しい栽培知識によってこれまでの鉢栽培の常識を超える樹勢と採花量になり得ることが証明できたためである。ばらに養液土耕の考えを採り入れて実証した点で福島氏の貢献度はきわめて大きいと思われる。

 鉢の土替えは2年に1回で十分と言われてきたが、この考え方は従来並の採花量が前提になっており、地下茎を多くし同時に空気の行き来を多くするためには毎年の土替えは必須条件になると思われるが、ここで福島氏に登場してもらった。

唐杉 「鉢の土替えは毎年すべきと思うがどうか」
福島「今までに紹介してきたコンテナ鉢栽培は1年苗 を秋までに成育させる方法について考えたもので2年苗以降の栽培法は正直のところよくわからない。多分試行錯誤になろう。また根巻防止鉢を使用するとこれまでの素焼き鉢やポリ鉢とは違った効果が相当出ており、毎年土替えしないでも良いような感じがしないでもない」

唐杉「根巻防止鉢というのをもう少し具体的に説明してほしい」
福島「8角形のプラ鉢で底は穴なし。8角とも稜線全部に下から1/4くらい切れ込みが入っている。この切れ込みのために空気に触れて根がカットされる。カットされた根は鉢土全体に張ってくるために肥料効率が上がる。つまり肥料を余計に吸収することになる」

唐杉 「切れ込みが入っている分、鉢をぐるぐる巻くことができなくなって鉢土全体にいく。その白根の量が従来の鉢よりも多いということか」
福島「そうだ。実際に調べてみるとわかるが圧倒的な差だ」

唐杉「このことと鉢替えとどう結びつけるかだが」
福島「従来の鉢だと外側に白根が巻きついて自分自身を締め付けて成長を阻害する感じになる。だから鉢替えが必要。しかし根巻防止鉢の場合は1次根、2次根がまず外側先端に来て、次いで3次根、4次根が内側に向かっている感じだ。だから外側を2号分削ぐとすると半径で3センチも切り落とすことになり、それがばらにとって適切かどうかまだ結果が出ていないのだ」

唐杉 「従来の鉢だと外側に3次根、4次根があるので削いでも2次根、1次根は残る。 根巻防止鉢の場合は外側に2次根1次根があるために全部持っていかれることになるということか」
福島 「そういうおそれがあるということだ」

唐杉「だから、1年目はそのままにしておきたいということ?」
福島「そうだ。これはそう思うだけでまだノウハウが成立していない。しかし一方で九州の気候では真冬に台木を畑に生けておくだけで白根がいっぱい出る。だから関係ないほどかも知れない。それと8号の根巻防止鉢は従来の鉢だと9号か10号に相当するとみている。いずれにしても2年目以降の栽培法については今後に待たなければならないと思っている」

3. リアルタイムでいくと

ミニばら栽培について

 ミニばらをわれわれが栽培するときはどうしても樹勢の点で不利であり、採れるステムは細く短いというのが通例であった。 写真1を見ていただきたい。これは例の西村氏のハウスである。左はHT、右がこれから話題にするミニ群である。氏のミニばらは2メートルもの高さになっており、ふつうのHTと同じ樹高になっている。

 写真1

 ミニばらの栽培にかけては九州山口地区では有名な宇部ばら会の松谷氏に尋ねてみた。

唐杉「ばら業者はミニばらの生産はどういう方法でやっているのだろうか」
松谷「通常アーチングシュート切りといって開花のための補助枝を通路に寝かせ、出てきたシュート枝を切り花で出荷している。この方法は通路が足の踏み場がないほどになるのでいかにも見苦しく、アマチュアばらの栽培法としては適当ではない」

唐杉 「高さはどのくらいになるだろうか」
松谷「根元からのシュートだから、50~60センチ程度だろうか。その長さに房咲きで咲かせている」

唐杉 「本数は何本くらい採れるのだろうか」
松谷「生産者によって差が大きく出ると思うが、 通常1株当り優秀な栽培者で年間15本くらいだろうか」

唐杉「西村氏の場合はステム1本に花1本の咲かせ方であり、ばら業者のような房咲きの場合と違うので一概に比較は出来ないと思うが、年間で1株当りで150~200本は咲くのではないか」
松谷 「房咲きというのはシュート枝を箒状にして咲かせるので、それを花数に数えれば同じ程度かそれ以上にはなるだろうが、ステムの長さがある程度ほしいので商品 がこういう形態になってしまう」

ということであった。
以下は西村氏とのやり取りである。

 写真2

唐杉 「写真を見て正直驚いている。いままでのミニの常識からすると、うちのミニも植木鉢からせいぜい50〜70センチどまりである。何がそうさせたのか」
西村 「No.534で紹介してあるように、巾7メートルを4列にしてミニは両端の2列で設計した。両端にした根拠はミニは背が低いからということだった。しかしそれが見る見る背が伸びてHTと変らないくらいになった」

唐杉「秋までピンチピンチで来たからか」
西村「新苗のピンチは芽が出てから1回通りはしている が、それ以後はやっていない。花も6月に入ってから切り始めている」

唐杉「うちでのミニは採花したらそれ切りで次の採花が出来ないほど弱ってしまう」
西村「切り花すれば樹勢は落ちるのが一般的のようだがそのようなことはない。切ったところからはまた新しいステムが伸び出してきてそれがまた咲いてくれる」

唐杉「1株当りに何本くらい採れるのだろうか」
西村 「写真2を見るとわかるように、株の根元は貧弱でも枝分かれしてからどんどん勢いが増してくる。30〜35日のサイクルで1日100本は切れる。それが60株あるのでこれまで10,000本以上は採れている計算になる」

唐杉「採花の長さはどのくらいのものか。またステムの太さは?」
西村 「長さは約20〜25cm。花のバランスを考えるとこのくらいが適当である。太さは計測したら直径2.3〜3.1ミリである。写真2の部分の茎径だが、大体の感じでHTのステム径6.5〜7.5㎜程度だ」

樹高がなぜこのように聳え立つのか非常に興味深い。そこでまた福島氏の登場となる。

唐杉「写真をみて大変なことだと思っている。何故このように樹勢が強くなるのだろうか」
福島「養液栽培方式は栄養成分を常時供給していくわけで、これは一般の鉢植え方式とも違うし、露地栽培とも違う」

唐杉 「従来のロックウール栽培法も水耕栽培で同じ手法と思うが、アーチングシュート切りする方法とどちらが花が採れるだろうか」
福島 「わからない。シュート切りは例え少しくらい収量が多くなっても、栽培の見た目が悪いのでわたしは好まない。それと品種によってはシュート枝は良い花になるとは限らない欠点がある」

唐杉「時間設定し灌水チューブから定量ポンプで供給するやり方は一般的とは言えない。この手法をどうやってわれわれの栽培水準に応用するかだが」
福島 「一言でいうと常時潅注方式をどう採り入れるとよいかということになる。有機質肥料にしても畑作に使う一発型肥料にしても、水分のない時には供給が停滞するか、低く抑えられているようだ」

唐杉「それと従来方式とあきらかに違うのはカルシュウムを硝酸態で供給するということ。これは硝酸性窒素が効くというよりカルシウムが効いているのだと思っているのだが」
福島「肥料効果をメカニズムで追いかけることは専門外だが、経験的に見てカルシウムも大きいと見ている」

以上


12月号     ホームページに戻る     10月号