ばらと遊ぶ12ヶ月 12月

1. 季節の便り

 年末の気ぜわしさから急にくつろぎの新春となる境目です。景気はデフレ基調が定着し、隙間風もたいへん冷ややかになりましたが、ばら作りにとっては苗の購入、懲りない株の移植、花壇ではこの時期しか出来ないレイアウトなど、空想豊かに夢を追いかける楽しい時期でもあります。

2. 次年度の準備を練る

イ. 土壌のpHを測る

 堆肥の積年の多用によって、pHがアルカリ側に偏っていくために苗の育ちが悪くなり、嫌地現象も出やすくなり、クロロシスも多く出るようになる。これは一般には堆肥に含まれるカリ分が植物体に吸収されずに土壌中に残るからである。また土壌を良くするために消石灰を投入しておられる方もいるようだが、これは初歩的な誤りで消石灰や苦土石灰を加えるとアルカリ性が強くなるので、それを上回るだけの酸性の物質の投入が必要となり、土壌はコントロールでき難くなる。しかし最近の栽培技術では日本のような火山灰系の土壌ではカルシウムは豊富に存在してもリン酸の介在のために植物に活性的なカルシュウムイオンが乏しい。そのために根に吸収されやすいカルシウムの存在が非常に重要だと言われてきている。

 いま流行のぼかし肥料 (窒素、リン酸、カリの合計が10%を超えると理論上、100%の有機肥料とは言えない) はこれらの成分のほかに隠れた成分としてカルシュウムを含んでおり、この存在がぼかし肥料の効果を大きくしている。

 土壌のpHは 5.5からせいぜい6.0まででそれ以上はばらにとって良くない。これを改善するのは No.532 を参照していただきたい。

ロ. 剪定しないで押し倒す

 ことしの試行錯誤でもっとも印象に残ったのは剪定を出来るだけ避けて横倒しにする方法である。通路を塞ぐわけにはいかないので隣の株同士、交互の倒し合いになってしまうのは致し方ないが、特に樹勢が強く高く咲いてしまう傾向のものは有効である。結果としては株間が1メートル以上の大木作りと似たイメージになろう。上から見ると大木作りは円形であるが、横倒しは直方体帯形である。No.540にも触れているがニューメルヘンと隣りのクリスチャンディオールとちょっと間をおいてレッドライオンの3本を倒してみたが、どれも凄い勢いとなっている。もともと樹勢強健なので当然の現象では ある。地下茎の状態はどうなっているのであろうか。これまでに1回も調べてみたことはないが、従来の剪定法よりもかなり発達している筈である。地上部の草勢と地下部の白根の量はバランスしていると仮定すればであるが、花数は地下茎が多くなっている分、効率よく採れるはずで現にそのようにある。

 問題は翌年になって横倒しにした枝をどのように仕立てるかだが、シュートの出た枝を倒して、去年までの倒し枝はもう1年そのまま使い、2年経過の枝は切り落とすことにしてはどうだろうか。剪定とちがって倒すのに随分手間がかかる。隣りの木を考えてお互いに倒していくのだから、もちろん支柱は必須だ。

 倒すときの高さは50センチくらいまで下げて這わせる感じである。この高さから芽吹くので春はステムの長さ80センチとすると合計130センチのところに咲くことになる。 倒すときの長さは2メートルから3メートルに なるものもあるだろう。あまり度が過ぎるものはあきらめて剪るようにする。2メートルの長さだと筆者のところでは隣りの隣りまで到達してしまうが、それをお互いにするとなると手間が大変である。美観の問題も出てくるだろう。 取り敢えずは筆者が今年やってみたように数本の規模での実験をおすすめしたい。

 実験に使うべき樹種としては No.540 以外にピンクラスター、ロージークリスタル、平成、熱情、クリスチャ ンディオール、コンフィダンス、シージャック、レディラックなど樹勢の強健なもの。剪定位置がどうしても高くなり勝ちなものにする。

ハ. 新苗も同じ要領で

 新苗の横倒しの方法は No.540 でも述べた。 新苗を入手すると枝がモジャモジャしていてどれをどう仕立てるか分からないものもある。横倒しによって間違いなくシュートが出るという保証があれば、主枝だけ1枝残してあとはどんどん上に約18日毎のピンチで繋いでいくだけでよいので便利である。 (途中でシュートが出ればそのまま立たせるのは言うまでもない。) とにかく葉の数さえ増やすことだけを心がけるとよいのである。そして5枚葉を3、4節 15段以上付けたところで横倒しにすると最低3本はシュートが上がる。横倒しの際には接ぎ木の部分がもろいので折れないように十分な注意が必要である。出たシュートはやや弱い傾向があるので5枚葉先端の葉柄の膨らみを観察しながら30センチ以上はピンチを控えた方がよい。

二. 根巻防止鉢への植え込み

 根巻防止鉢は下方部に切れ目を入れ、空気に触れさせることによって根を遮断させる効果を持たせたものである。以前は素焼き鉢が白根がよく出るので有用だとされてきたが、逆になってしまった。従来の方法で鉢植えをしていると、必ず鉢の外側を白根がグルグル巻いてしまうので、それを削ぎおとしながら1号から2号小さ目の鉢に植え替えていたが、根巻防止鉢を使うと植え替えをしないで済むかもしれないと先号で福島氏が語っている。

 その根拠は1次根、2次根が外側に来て、内側に3次根、4次根と延びるため、外側を削ぐと1次、2次根が切り取られ、3次根、4次根とも無くなってしまい、ショックが大きいかも知れないというのである。しかし何年もそのままと言うわけにはいかないのだろう。内側に延びた3、4次根は5、6次根となるにつれてこんどは内側で窒息状態になるかもしれない。

 根の生態さえ分かれば応用動作はどうでもなるので、結論は次年度以降になろう。

3. リアルタイムでいくと

 写真は10月27日 (土) と28日 (日) に行われたわが家での個展会場の一部である。このようにして3つの部屋と廊下に約90点の花瓶を並べ、玄関には壺やガラス器具でのアレンジメントで賑わいを見せるのである。玄関は幾分光線が弱く写真にはならないのが残念である。個展はこれで第11回目になった。No.517号でも紹介しているように、前回まではY氏から備前を約50点拝借したのが圧巻であったが、ことしからは事故が怖くて自分のものだけにしている。このときに教わったのは花瓶が大きくても1個に1本という原則である。花がたくさんあれば良いというものでもない。出展には150本もあれば十分のようである。

 ことしの花は全国展とそれに続く熊本で行われた友人の油絵個展の友情出品もあって、10月初旬からずっとだらだらと咲かせてきた。2,500本は咲く合計280坪のハウスではあるが、毎日毎日の切り花にするとせいぜい50〜70本どまりである。HTだからできるだけ花弁を伸ばして切りたいのだけれど、そうすると長持ちしないというので身を切られる思いで若切りとなる。

 花の出来であるが、10月初旬に花巻に持って行った頃はみわくとあけぼの程度しか良花にならなかった。さすがに月末になると、どれもが一応の水準の花になっていてほぼ満足のいく花となった。最も嬉しかったのは、新しいハウスで咲いた花が、コンフィダンス、シージャック、コロラマ、フロージン82、魅惑、あけぼのなどガーデンパーティ、香具山以外はほとんど良花になってくれたことである。アダージオ (改め「趣味悠遊」)の肥効と植床の素材がものを言っているのではないかと思っている。

 下旬になって魅惑とあけぼのに佳花がきたと福島氏に言ったら、「それはどこでも同じだ」と言って蹴られてしまった。しかし絶品という表現はあるにはある。問題はだれが言ったかということ。筆者の言う絶品と福島氏の言った絶品とはわけが違うとでも言いたげである。どこにでも同じような現象はあるという言い方は香具山で会長杯を取った実績を引っさげて言っているわけでコン畜生と思ってもそれは勝てない相手ではある。「そのうちに魅惑やコンフィダンスで」と必勝の誓いを自分にして聞かせたものだ。

4. ばら栽培談義

 去る5月、長崎県諫早市、佐世保市にある2つのばら園を中心にして遊んだ。諫早には山口氏、佐世保市には西村さんがいて、いずれも話題性に富む人物である。ばら歴は共にまったくないといってよく、初心者の段階であるが、その持てる能力を十分に発揮され、もはや大ベテランの域である。同日、夕食を囲みながら、賑やか活発なばら談義となった。

[座談会] 最近の話題から

  • 期日:5月26日 (土)18時
  • 場所:平戸国民宿舎「たびら荘」
  • 出席:上森、松谷、西本、福島、宮崎、森田、水田、水田夫人、西村、徳永、小田、山口、唐杉
    以上13名。

司会(唐杉)「今晩は。本日は急な行事設定をして申し訳ありませんでした。それというのも、去る5月18 日から始まった『国際バラとガーデニングショウ』に出品した西村さんのばら園をぜひ覗いてみようという希望が強くなり、この急な計画となりました。同じく長崎諌早には山口さんもいらっしゃいます。そこで無理な日程ではありましたが、万障を繰り合わせてご出席頂きました。まず、上森会長から挨拶を」

上森 「福島氏の発案による西村さんのばら園は 『ばらだより』にもたびたび紹介されています。関東、関西でも関心が高まっており、今回の西武球場での『国際バラとガーデニングショウ』に西村さんが出品されてから一躍脚光を浴びています。今回は諫早の山口氏のハウス、森山町の公園予定地、馬鈴薯で有名な諫早の赤土(じつは小長井の客土) を見て、それから佐世保に飛び、西村 さんのハウスを見ました。 そのどれもが興味を惹くものばかりで、たいへん参考になったと思います。これから、夕食を摂りながら皆さんの活発な意見を述べていただきたい」

司会「まず、 山口さんのばらハウスから入りたい。山口さんからのご説明を」
山口 「わたしの住む諫早の森山町唐比(からこと呼ぶ) という土地はむかしから広大な泥炭の湿地帯を南に擁し、非常に気候の温暖な所である。ハウスだと4月の上旬に1番花が来て、今は2番花が咲いている。暖房の力を借りずに露地との差が1か月以上もついている。6月末には蓮の花が満開になり、一大公園にしたいという 森山町の構想もある」
(午前中に湿地帯の案内を受けており、粘土の固化した塊のように見えるものが土ではなく、実はピートモスの一種でこの辺一帯が太古の昔、湿地帯であったとされており、地下数十メートルはこの泥 炭層で蔽われている。足元を飛んで揺らしてみる。半径5メートル以上がブワブワと動く。気持ちが悪いほどである。これは水の上に浮かんでいるからではなく、ちょうどピートモスでスポンジ状になっているのだ。これを用土にして赤土と混ぜると驚くような物性をもった土壌になるという)

松谷「pHはどの位か」
山口「ピートモスと同様な物性なので多分4〜4.5くらいだと思う」
松谷「そんなにいい材なら採掘して他に持っていく商売が成立しないのか」
山口 「それを始めようとした業者がいる。そこで森山町が全部買い取ってそれが出来ないようにした」
唐杉 「自然環境を守るにはもっとも手っ取り早い方法である。それを今後町としてどうしようとしているのか」
山口「今年度6億円を予算化して蓮とばらの公園を作 り森山町民の新しい名所にしたい計画がある」

水田 「蓮とばらはどういう結びつきか」
山口 「ご承知のとおり、諫早ではばらを本格的にやっている人がいなかった。最近になって唐杉氏の紹介によってわたしがばらを始めて、それをあちこちに普及していった結果がこういう形になって具体化しつつある。蓮は食べる蓮根ではなく、花を見る蓮が好きで取り寄せてこの地で数年前から小さな池を作り栽培してきたが、すごく綺麗でこの広大な地の一部を公園にする計画に町も乗り出してきた」

上森 「この地域であれば何をしても成功する筈だ。熱源はいらないし、露地の1か月以上も早くばらが咲くようであれば観光地として立派に成立すると思う。ただ、ハウスの中が余りにも暖かすぎるが、今の時期は開放したほうがいい。花もすでに夏花になっているようだ。2番花も大きく咲かせるような工夫が必要かも知れない」
唐杉 「それと、ばらと蓮を結びつけて観光地にするアイデアは素晴らしいと思うが、観光客が殺到したら、この狭い道路ではひとたまりもないだろう。それが気になる」

西本「剪定の方法が違うようだが」
山口「春先の剪定は地上5cm以内に無差別にブツ切りにしている。そこから出た芽を咲かせる方法である」 (どの花もシュート枝を出させ、 それに咲かせて切り花 した形跡がある)
森田「こんなことで無理しても株が弱らないか」
山口「見ての通り、次々に根元から新梢が発生するので弱ることはない。」

森田 「何年目か」
山口「3年目に入ったところだ」
森田「大体の年間の生育ステージは?」
山口「5月下旬に2番花のあと、秋は50cmのところから切り戻して10月下旬に開花。11月下旬には2番花。翌年になって3番花も見ることが出来る」
松谷「切花業者のように咲かせるようになるが、樹が10年、20年と持つだろうか?」
山口「それは分らない」
上森「ここのばら栽培はこの地特有のものとして他には参考にならないかも知れないが、こういうばらの育て方もあるということ」

水田「消毒はどうしているか」
山口「10日に1回は励行している積りだが、ときどき空くことがある。ダニ、スリップスが気になるが、スリップスはフィトンプラスという忌避剤を開発した。(5月号6ページにも記してある。5月号の切り花業者さんと山口氏は全然関係がない。つまり、実力ベースの商品だということ)菊栽培、ばら切花業者に大変好評を得ている」

司会「次に小長井の土について」
山口「昔から諫早愛野一帯の馬鈴薯は有名だったが、それをさらに品質的に向上させたのが小長井の赤土を客土にした特産馬鈴薯だ。この付近は見てもわかる通り1枚の畑がほとんど1反前後で全部がジャガイモ畑だ。
(土の色が真っ赤から次第に赤みが薄くなって普通の土の色に変っているところもあり、雨上がりには今より以上に赤が強調される。1枚1枚の畑が丸みのある石組みで区画されておりこれだけでも美しい絵になっている)
小田「客土はどのくらいしてあるか」
山口「全面に30cm。1反歩だと10トントラック30台分の客土になる」
小田「うす気味悪いようなまでにレンガ状の真っ赤な土で、見るからに良さそうな土だが主な物性は?」
山口「水持ちはいいのに決してべとつかない。いつも さらっとしていて、水はけがいいことだ。これが美味しいジャガイモが出来る条件となっている。pHは 5.1 である」
小田「小長井の土でなければダメか?」
山口「諫早には近くに赤土があって、それを試してみた者があるが、味、収量が全然違う」
森田「畑で 1枚1枚色が違っているが、使った年数によるものか?」 山口「そうだ。栽培していくうちにだんだん赤色が薄くなっていく。すると収量も年々落ちていく」
森田「土の小売りはしているのか」
山口「2トンダンプで取りに行って5〜6千円というところだろう」
唐杉「ばらはやはり土である。この土でばらを作ってみたいと切に思う。近ければ土の総換えもしたくなるほどだ。今年になってやっとまともな花が咲き始めたのも土のせいではないかと密かに思っている」
福島「鉢の用土の配合に出来れば使ってみたい」

(この小長井の土による諫早愛野の馬鈴薯をみやげにごっそ りと持ち帰られたことを付記)

司会「さて、次は西村ばら園の登場である。到着して第一印象についてお伺いしたい」
上森「設備的には申し分ないものに仕上がっている。新人でもそこに立派な指導者がいて本気にやればここまで出来るのだと実証した。もうここまで来れば新人もべテランもない。むしろ、水を開けられているとさえ思う。しかし、コンテストというもの、花の出来は1/3である。あとの1/3は運搬の技術、1/3は出品技術である。まだ2/3残っている。どんな花を作ってもセンスのない人は勝てない所以がここにある。これからがまたたいへんだ」
松谷「木振りはしっかりしていて、そのまま秋に使えそうだ。しかし、シュートがまだ出ていないのが気になる」
福島「上に伸びている分シュートが出ていないのだと見ている。もっと根が張ってくれば間違いなくシュートは出てくるはずだ」
西本「シュートを出さねばならない今の段階でステムの上部で新芽を出させている。何故か?」
福島「シュートを出させるためには上部の新芽欠きは必要と考えている。だからこれは西村さんへのアドバイスが十分ではなかったことによる」

唐杉 「わたしは今回もちろん初めて来たわけだが、はっきり言って、もうこの場で先を越されていると思った。福島氏からはしょっちゅう話は聞かされているが、去年までの福島流、鉢栽培は一鉢一鉢のものであって、それがまとまった形で実証されているのはこれが初めて。多分本邦初演というか、凄い価値のあるものであろう。わたしの新設ハウスはこれまでの反省に立ってわたしなりにその欠点を改めて設計した積もりだが、この設備を見て『まあ、この位のもので十分だろう』と妥協していた部分があることに気づいて、反省している」
森田 「わたしのばら園と比べて花の美追求という点では格が違い過ぎる印象を強くした。すべて計算されていて、一寸のスキもない感じである。とてもマネできないと思った。」

司会「それは今の森田さんの栽培方法では森田さんの花は絶対に西村さんの花に追いつかないということか。たまには出ても、とてもではないが勝てそうにない。そのように実感したと言うことか」
森田「そうだ。いくらたくさんの量を咲かせたとしても、とても追いつけない。それだけ手がかけられているということである」
唐杉「それは森田さんが新人でありながら、素晴らしい感覚があるからだ。普通の考えでは数百本も咲けばそのうちいい花が1本2本くらいは咲くと思うだろう」
森田「うちはガーデン風におおらかに咲かせている。ツエも使っていない」
上森「だから、うちのは及ばないと言うのは多分間違っていると思う。おおらかに咲かせれば、それなりの立派な花になる。むしろ1本花では勝るかも知れない。だから、ここはこう、だけどうちはこうと言うように区別するだけでいいと思う。最後はその人の熱である」

 入り口はスリッパで入るようになっている。
木振りもほとんどが直径7.5ミリ以上、高さ2メートル以上になっている

水田「通路に人工芝が使われており、ハウスにスリッパで入場というのは初めてと思う。清潔な感じがした。今でこそ花はないが、秋になるとさぞ綺麗だろうと思った」

 波板仕切りによる鉢。この波板を広げて土を入れていく。
横に走っている2本のチューブが自動潅水装置。ここから水、液肥が滴下される。
シュートはマダムビオレ。このようにこれから次々にシュートが出始める。

小田「鉢を大きくしていくやり方についてだが、この方法もあるがわたしは素直に3号、5号、8号、10号、12号とその都度変えていく方が却って省力出来てよかったのではないかと思っている」
唐杉「ただ、新苗からの出発だと植え替えの都度苗を僅かづつ持ち上げていかねばならなくなり、その労力がたいへんだと言う最初の発想があったと思う」
小田「それは新苗から8号、10号までの段階で途中までは空中支柱は仮の結紮にしておいてもいいと思っている。固定してしまうから仕事がし難くなるわけで」
福島「春に西武球場に持って行くというイメージが交錯してこの方法になったのは確かだ。 最初から秋だけを目標にしていたら、小田さんの言われる方法になったかも知れない」
西村「それと鉢をその都度替えていくやり方は自動潅水方式の点滴チューブの液漏れ問題が出てくる。鉢は丸いのでこぼれる量が多くなる。通路床面が濡れると人工芝が汚れてしまうことも考えられる」

唐杉「それから、大事なことを。去年の夏にサビ病問題で記事にしたがそれが 『魅惑』 に出ていた。あれは結論的には切花業者は90%以上ベト病の一種と言いきった。ひょっとすると西村ばら園もベト病に弱い地帯かもしれない」
小田「あれは怖いから用心したがいい。ベト病ではないが結構な伝染力はある。西村さんも一度は泣く目にあった方がいいかもしれないが、かわいそうだから」

西本 「鉢の高さがや、低いのが気になる」
福島 「鉢栽培には鉢の深さより、鉢のボリュームの問題と見ている。浅い分は横張りを考慮している。それと仕切り板を使って若干高くなるように気を使ってはいる」
西本 「5号鉢からこのコンテナー鉢に本植えするときに底には土漏れ防止用として何か使っているか?」
福島 「何も使っていない。むしろ根が空気に触れると成長が止まる。根巻きが回避されることにより、その分だけ鉢内全体に根が増えているようである」
森田 「用土はどういう処方か」
福島「兼弥産業のK4を2、ココスピートを2、ボラ土(阿蘇の火山灰土) を4、赤土を2でブレンドしたものだ。今後波板を大きくして用土を入れていくが、その時は今日の小長井の土を赤土に替えることにしたい。赤土は鉄欠を防止するためだ。以上の配合によって出来た用土は、コンテナーの隙間から洩れることは考えなくともよい」

司会「ではこの辺から質疑応答に入りましょう」

松谷「春の1本切りのあとの管理だが、 秋までに追いつくだろうか」
福島「秋までに1コンテナー当り8本、つまり1株 当り4本立たせるのが目標である。十分間に合う筈だと思っている」
松谷「メルヘンの葉がちょっと気になった。全体に葉が黒ぐろしている割りにや、小さい印象をもった」
福島「5月初旬に矢部で育てている鉢苗を佐世保に持ってきて比較したことがある。生年月日はもちろん一緒だが、そのときに葉が矢部の方がはっきりと大きかった。考えられる理由は、3月18日19日にかけて西村さんところに定植しているが、その時期が早過ぎたのではないか。いままで温室で育ててきたのが急に加温をやめて植え込んだ。佐世保の気候がまだ早春というか、ばらの生育にはやや早過ぎる気温だったのではないかということくらいしか考えられない。そのときのショックを今も引きずっているのかもしれない」
唐杉「そのとき西村さんから電話があったが、相当ショックを受けていたようである」
西村「今まで福島師匠の言う通りにやってきた。それが言う通りにやってもならないときにはならないと分ったそのショックだった。今年は西武に行くというので早く作った。西武を考えないのならもっと遅く作り、もっと低く作るのがベストだったかもしれない」
上森「場所が変り、分家し独立したということだ。これからいろいろの場面で違った現象が増えてくるが、悪い面ばかりではないと思うので悲観することはない。ただ、自分の眼で確かめることは重要になると思う」
小田「シュートを出させないで1株で1本を作る仕立て方というのはどうだろうか。つまり、今の1株分の面積に6本を植え込んでしまうやり方だ。いい花になるだろうか。コンテストには手段を選ばずという考え方だ」
上森「お前たちは何を考えているのかといわれるだろうな。頭がバラバラになってしまったのかとかね」
福島「面積あたりの収量は一定と思うので、密植しても意味がなくなるが、株によって成育にバラツキがあるので、保険の意味はあるだろう。美の観点からではやってみていないので分らない」

徳永「鉢栽培は常時水をかけなければならない欠点はある。そのために機械化し、省力できる部分は省力している」
西本「点滴チューブからの滴下濃度は一定か」
福島「そうだ。液肥で言うと濃度だが、水で言うと水量になるが、その都度の調整はやる」
西本「肥料はどのようにしてやるか」
西村「11・15・32というのを300g、硝酸カルシウムを200g 。これを1,000リットルに薄めて滴下する」 (窒素としては67ppm、カルシウムとしても68ppmに相当する)
唐杉「この濃度で毎日やると言うことか。 硝酸態の窒素を補給するのはわかるがそれをカルシウムとの化合物として供給するのがいいのかもしれない」
福島「もちろん水だけと交互にやる感覚だが、葉の状態を見て決めることになる」

唐杉「本法によると秋の開花の位置がコンテナーの高さの分、約20cmほどは高くなるようだが」
福島 「それは最初から計算に入っている。どれもこれも良いというわけにはいかない」
唐杉「どのくらいの高さに咲かせようとしているのか」
福島 「約200センチから210センチのところになろう」

司会「つぎに自然消毒装置についてだが」
松谷「通常との比較でどのくらいの液量増になるだろ うか」
宮崎「ミカン農家の実施例では10から15%増くらいであると思われるが」
福島「実際にやってみてからでないと分らない」
森田「上からの消毒で葉の裏までは行き渡らないように思うがどうか」 (実際に噴霧してみる)
宮崎「普通の消毒器の噴霧状態と違ってミストが小さくなっているので、裏もかかっていることになるようだ」(散布後葉の裏を触ってみる。 幾分濡れた感じはするが、十分とまではいかないようだ) 森田「消毒時間だが」
宮崎「西村さんのところで30坪。従来50リットル使っ ていたとすると、この規模でちょうど1分かかる」
唐杉「栽培面積が多くなると消毒時間も多くなるか」
宮崎「あまり多くは変らないと思う」
唐杉「やはり、かけムラが気にかかる。これだけで葉の裏から別にかけなくていいだろうか?」
福島「2回は自動で、1回は従来法で行うことを考えている。ベト、ダニなどは手がけでないと心配だ。これからは芽に入るスリップス、花に入るスリップスの防除がこのハウスのポイントとみている。すでにミニばらは切花が始まっており、12月一杯まで切れると思う。だからスリップスはいつも気にしなければならない。ことスリップスに関しては上からの消毒で万全であると思われる」
水田 「費用はいくらかかるか?」
福島「概算で5万円くらいだ。1か月に3〜4回消毒していたものが、1回で済むようになると消毒嫌いの人にとっては良い話ではなかろうか。これは露地でも応用できる」
宮崎「完全に自動化ということになるとイチゴ農家などでは煙霧機を使った消毒がある。これは夜ハウスに入らない条件で4時間燻炎消毒する方式がある。これは既に実用されている。当然密閉型のハウスでないとだめだ」

松谷「ハウスの半分がミニばらになっているが何故か?」
西村「ご覧のようにハウスのサイドが低いので、ミニ チュアを勧められた。植付け計画の段階で上森さん、小田さんのところにお邪魔して見せてもらった。ミニがとても美しいと思って栽培する気になった。ミニチュアーは気軽に切れるし、人にあげたらとても喜ばれる」
唐杉「パイプの残液はどうなるか?」
宮崎「定量散水後にフラッシングといって残液を全部押し出すような仕掛けがしてある」
小田「便利な設備と思うが、葉の裏のかけムラの問題があって直ちに実用化のところまではまだ行っていないと思う。2回やって1回を手がけの方法で使えるかを見てみたい。 引き続き結果を見守りたい」
唐杉「しかし、その一方で消毒薬液増による経済性が少しは非効率になっても何とか手散布だけはやりたくないという人は結構使えると思う。その場合は1回当りの量を増やすよりも回数を増やす方がベターであろう」

司会「最後に福島氏よりこの西村ばら園に対してのコ メントがあれば」
福島「わたしの発案によるコンテナー栽培法がこのように熱心な初心者とめぐり合えて実証されようとしていることは、弟子の西村さんともども大変喜ばしいことであ る。皆さんからの期待にもある程度は応えられたと思っている。現在はあくまで過程の段階である。皆さんからのご指摘のようにまだいろいろ問題点は残っているので、それをつぶしていきたい。勝負は秋まで持ち越されることになるが、それなりの手応えはつかんだと思っている。西村さんは昨夜は徹夜で準備したということである。その並々ならぬ熱心な姿勢に対してみなさんも何かを感じ取っていただけると思う」

(註:本文は座談会形式にしているが、見学をしながらの質疑応答もあり、その内容をメモしたものもあることをご了承いただきたい。文責はあくまでも筆者にある。)

5. おわりに

 もうこれでいよいよ「ばらと遊ぶ12ヵ月」もおしまいになりました。長らくの間、駄文のお付き合いありがとうございました。書くことは好きなものでこれからも熱の冷めない限りどんどん書きまくりたいと思っていますので、よろしくお付き合いのほどを願いします。

 大畠編集長にはいろいろわがままを言わせて貰って随分閉口ご立腹もされたかと思いますが、それもこれも爽やかな想い出になるのですから勝手なものです。おかげさまで「遊ぶ12カ月」はとても楽しく書かせていただきました。そして、エラそうな事を書いたのに岩手県花巻市での全国展では結果が出ずに残念でした。いつも、もうちょっとで優勝のところに来ているのにと思って帰ってくるのです。70才まであと10回チャンスはあるさ。まあゆっくり行こう。

 そして、最後になりましたが九州ばら研究会の皆さんにはいろいろ御助言、御協力いただきありがとうございました。もし、諸氏の助勢なくば12回もの長期連続は有り得なかったとつくづく思っています。


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