南國のばら作り、あれこれ 5月

武州にて初恋が実る

 1昨年のことだ。個展用に紹介したかったのでクリスチャン・ディオールを7月初旬に武州と紫野に接いでみたことがある。腹接ぎと芽接ぎだ。興味半分である。花になるならないは別である。10本接いだが武州だけに4本しか活着しなかった。しかし、花はそこそこのものが咲いた。

 昨年は6月末に紫野にファーストプライズを芽接ぎで3芽、切接ぎで3芽接いだところ芽接ぎで2芽、切接ぎで3芽の活着となった。そこで7月末から8月始めにかけて暇にまかせて武州に初恋を、あけぼのにビッグチーフを接いでいったところ、武州と初恋の組み合わせでは90%、あけぼのとビッグチーフの組み合せでは約60%の活着となった。

 わがばら園の武州は特に樹勢が旺盛である。放っておくと天まで届くように直立で伸びていく。だから、武州を使ったのは理由が明白としても、あけぼのを使った理由はビッグチーフも同じく遮光族のためである。それと初恋は自木だとヒネくれ気味に斜め方向にのびていくが、接ぎ木だとどうなるかも興味があった。

 初恋もビッグチーフも接ぎ穂は限りなく細く、こんなものでうまく行くわけないがと、半ばあきらめていたが、いざ活着してしまうと台木のステムの勢いがあれば全く問題ないことが判り、びっくりした。

 盛夏に接ぎ木する有利さはすでに実生をされている大先輩方は十分心得ていらっしゃるだろう。私ども初心者は真夏の接ぎ木など活着するわけがないと最初から考えてもみないのがこれまでの通念であろう。しかし、やってはみるものである。秋にはうまく活着すれば接ぎ穂1芽当たりに1本は本物の花が見れること。また 折角手に入れた苗が育成悪く思うように花が咲いてくれそうにないときなどにはもってこいの方法であるあるのでご紹介した次第である。かくして、武州での初恋が実ったのである。まずは目出たしめでたし。

 このアイデアはもともと樹勢のない香久山や千代、葉焼けの起きやすいマダム・ビオレなどは、他の樹の勢いを借りて接ぎ木によってどうなるのか非常に興味の湧くところである。

 例えば我が家の香久山は土質のせいかどうしても勢いがなく哀れであるが、春の新苗1本立ちなどで見事な花になることからみてもこのアイデアも捨てたものではなかろう。また春はどうしてもダブルセンターでいやになるが、秋には抜群の出来になる魅惑などは例えば武州を苗に使い、それを台木にして接いでみるなどに展開してみてはどうだろうかという、これも面白い試みに違いなかろう。

 逆に魅惑を植えているなら、春だけ他の花を楽しみ、7月に入ってから接ぎ木の根元からバッサリと切り込み、みわく本来の新梢を待つのである。多分ショックで 死ぬことなどはなく、勢いが削がれる分、却って秋には佳花をみることになるのではなかろうか。

 また、このような遊びをしながら思うのは武州での初恋は相性がいいが、マドーナーに初恋は悪いようだが、一体そんなことがあるのかどうか。これも非常に興味のあるところでもし有るとすれば、パーフェクタがだんだんうまく咲かないようになっていく根拠が説明できるかもしれないなあと思うのであるが、果たしてどうなのだろう。

魅惑と白鳥と初恋と

 最近の京成ばら園芸の作で、みわくと初恋はコンテス ト花としても大変な佳花であると思うが、興味深いのはその親についてである。カタログによると、魅惑が1988年、白鳥が1989年。初恋が1994年の登録となっているので、魅惑と白鳥はさしずめ双子の兄弟であり、初恋はそれからしばらく経って生まれた弟である。

 魅惑が出たときは驚いた。樹勢はすこぶる強いがステムが如何にも武骨過ぎて色気がなく、おまけに短足である。それに、負け枝現象は強いし、開花してしまうとほとんどがダブルセンターである。それだけでなく春は色も悪いし100%ダブっているのでこれがばらかと思うほどで、癇癪のあまり捨ててしまったこともあったくらいである。

 しかし、この花の本領は春ではなく、2番花以降である。夏の暑い盛りでも30~35日でそれは立派に咲くことがある。1997年の北海道展に出品して幸運にも入賞したのはこの花であり、九州で夏花を出品するにはこれしかないと言うほど色もよく出てくれるし、シンもよく上が り、弁も伸びる。淡いクリーム色をベースにして弁端の周囲にうっすらとしたピンクがさしてくるとき、それまでの出来の悪さなどすっかり忘れてしまうほどである。

 だが、この花も市民権を得るためにはかなり時間がかかった。そう言えば、かのシージャックにしても名前が気にくわないと言ってけなされた時期もあったようだ が、魅惑は花も色も申し分ないのに芯が低いという評価だった。しかし測ってみると7センチはあり、コンフィダンス、シージャックに勝るとも劣らぬ高さである。審査はひとりでやるのでなく、相対評価、総員評価であるので好みが別れるのは当然であるが、審査員の先生方は自分が作ったことがないと評価できないというところがあるのかも知れない。

 次に出た白鳥だがこれもカタログでは剣弁高芯とあるが、九州では白鳥はとても高芯というわけにはいかない。しかし、込み入った枝に片手をぐっと差し込んでもトゲに刺されることなく腕は無傷で生還する事ができる上に樹勢が旺盛でつぎつぎに咲いてくるので、コンテス ト花ではないがこの花はなかなか愛嬌があってかわいらしい。細君がこれがとても好きというのだが、なぜかと問うと何となく好いという。よくわからないが、そういうことらしい。兄弟同士だと輸血もうまく行くだろうから、魅惑が春がだめなら、まず白鳥を植える。成木になったところで、その上に魅惑を接いで春は白鳥、夏以降は魅惑でいくというのはどうだろうか。

 さて、末弟の初恋はこれまた物議をかもし出しそうな花である。1997年秋、福岡福間のO氏の出品した初恋はそれはそれは堂々としたもので、良く出来ている香久山、シージャックを蹴落として見事優勝してしまったのである。弁端にこれもうっすらとしたピンクの色を添え、花芯からはいままで見たことのないようなうす紅のふわっとしたものが上がって来るのだ。全体のトーンは魅惑に似てクリーム白である。生後5年、多分近い将来コンテストで名を馳せる品種になることまちがいない。難点は白鳥の兄弟なので、ズングリ型であること。樹勢は強いのか弱いのか、シュートが出るとそこから一応強いステムが2本は出てくるが、それがまっすぐでなく斜め方向に伸び上がり、花も表をはっきりと作って咲きあがる。枝直しをしないと飛んでもない事になる。花弁はつよく花は大きい花持ちは良いので、品のよさが増せば鬼に金棒となるのだが。

 魅惑、白鳥、初恋と京成ばら園芸の作出はトゲの少ない銘花がつぎつぎに出ている。初恋の先、どういう品種が出るか非常に楽しみである。彼らの両親は誰なのだろうか。

フレーフレーネニサンソ

 どうもハウスではうまく咲いてくれない品種がある。せっかく個展を開き、みなさんに披露するからには、ガーデン・パーティはガーデンパーティの最高のものを出品したいし、マダム・ヴィオレやクリスチャン・ディオールにしてももっと大きい花を咲かせてみたい。丹頂やダブル・デライトは赤をもっと協調したいではないか。今年春になって、露地のばら園を新設しようと思って空地を探したが、そこはレベルがちょっと低く、大雨のときは水が溜まりっぱなしのところで、とてもばらがまともに育つところには思えない。そこで、ゴルフ場とか競技場を設計している土木の専門家に相談したところ、奥行き10×間口5×深さ0.5メートル (25立方メートル) にネニサンソ(パーライト)を50袋 (5立方メートル) とフミロン(ピートモス) 30袋 (1立方メートル)にボカシ肥料 (4-4-2) の100kgを天地返ししながら混ぜ込んだらどうだろうということになった。

 さらに排水を良くするために、直径12センチの暗渠用パイプを2メートル間隔に2本ずつその下に埋め込んでいく作業もある。

 人力で25立方メートルの土を払いながら、6立方メー トルの土改剤を鋤き込む。さらに暗渠配管も埋め込む。言葉では簡単だが、とても大変な作業だ。

 どのようにしてやったのか。 たて10メートルを5等分し2メートルにし、幅5メートルの10平方メートルの土をHONDA製の小まめトラクターで20センチ耕運した後で、その土を手前に盛り上げた後、剣先スコップで25センチを掘起こし、その固まりを手前の盛り上げた上に乗せて40センチほど深くなったところに小まめトラクターを入れて、約10センチほど耕運する。それから更に、その中央部に暗渠配管も埋め込むのである。

 その上にボラ土を2袋パラパラと被せていき、その上にさきほどの掘り起こした土はそのままにして、次の5等分の1区画の土をさっきの方法で埋めながらそこに2層に分けて1層にネニサンソ5袋、フミロン3袋、ぼかし肥料10kg入れて十分に鋤込み、同じ作業をもう1層に行うことで、深さ50センチの植え床 (全行程の1/5の作業)を完成させるのである。

 通路が狭く、ユンボー(パワーショベル)という武器が使えなかったのが重労働を余儀なくさせられた原因だが、人を1人雇って2日がかりで作業終了となった。約25立方メートルの土に5立方メートルの土改剤だから混入比20%である。もう大丈夫と思って作業完了後にそのふわっとした植え床にホースで水を落としてみた。何時間注水しても、水は直下型にスーッと吸い込まれるはずだという期待をよそに、ものの見事に横にダラダラと流れていくだけだった。まったくのところガッカリしたものである。

 しかし、理屈のとおりやるだけはやったので、これ以上は仕方がない。その植え床に36本の苗を新植したのだが、その結果はどうだろう。まず雑草のはびこりようが異常に凄いことからわかるように水捌けの悪さと植物の生育とは必ずしも相関を持たないことが判りほっとしたものである。この植え床が植物にとってどのような状態かは1年目はこうだが2年目以降はどうなるかは今後に待たれるところである。


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