ばらと遊ぶ12ヶ月 1月

1. はじめに

 ばらを始めてから20年ほどになる。早いものである。 最初は、花を出来るだけたくさん集めることと心得て、古いHTを集めまくったものである。種類にして250位はあったろうか。そのころは、ばらをどのように栽培するかというより、どれだけ収集出来るかであったように思う。勿論、ばらの美に対しても、何がわたしをこうも熱中させるのか、わからないままに過ごしていたように思う。それは今も同じかもしれないが、少しずつ判断の基準が変っていったことだけはたしかである。

 もともと、多趣味で飽きやすの好きやすの性格がわたしの本分である。「どうして、そんなにばらに拘るのか」とよく聞かれる。わたしは、なかばまじめに半ば冗談で「ばらは女性のヌードですよ」と答えるようになった。女優にも、そうザラにはいない教養の備わったやさしくも美しい顔。造形美とあでやかな姿態。さて、どのようにしてこの万花の女王、ばらを更に美しく咲かせることが出来るのだろうか。

 コンフィダンスも、みわくも、間違いなくそれなりに咲く。しかし、「それなりに」では納得しなくなっているのが、いまのわたしである。あちこちのばら会場を見てまわったり、出品したりしているが、いろいろの人の作品に感動し、頭を叩かれて、少しは自分の花もあの位のレベルに到達したい、いやそのレベルには達している筈なのだが、なぜもうひと押しの花にならないのか反省しながら、悄然として帰ってくる。去年の東京八重洲地下街での全国展もそうであった。

 だからと言って、そんなにまじめに四六時中ばらに漬かっているかというと、そうでもないのだから、勝手と言えば勝手である。 ポイントポイントをしっかり押さえていさえすれば、必ず佳花にはなる。こういう横着な考えで栽培するものだから、どこかに大きな落とし穴が待っている。

 今日のように、ばらに関する書物がたくさんあって、(なかには、あまりこの方は実地の栽培はやっていないなあ、という著者もおられるようだが)指導者も懇切丁寧に教えてくれる時代になっ た。 昔は、コンテストでライバルに勝たれては困るので、肝腎なところはウソを言ったり、まるで反対を説明したりしたということが、まことしやかに伝えられているが、いまはそんなことは通用 しない。ウソくさいとなれば、直ちに見破る事のできる人たちが初心者にわんさといるし、中には知っていてどう答えるか試している風もある。

 私見によると、ばら作りはよき調教師がたまたまそこに居り、その人が言う100パーセントを、そのまま実行しさえすればズブの素人であっても、必ず最も美しい花を咲かせることができると信じている。その意味では、ばら作りもめぐり合いである。要は、その人の言う通りのことを、どれだ け守れるか、実行できるかにある。そして、もう少し欲を言えば、栽培上の常識としての少しばかりの農業の心得があれば十分でなかろうか。

 わたしは、幸か不幸かことし1年間にわたって、毎月毎月原稿を書かなければならなくなった。 名誉ではあるが、何事も、拘束されることが非常に苦痛に感じるのが、本来の性格であるからして、この1年はまさしく流行作家のように責められつづけるだろう。ばらに対しての熱情、構想が湧き出る季節、特に冬期はいいが、手入れに忙しくなる春以降や、時として、想いの萎える鬱状態のときが必ずくる。その時期を、どう乗りきれるか心配である。

 ともあれ、もう動き出してしまった。原稿を引き受ける際にも往生際が悪く、周囲の方にもご迷惑をかけてしまったが、こうなった以上、わたしはわたしなりの書き方で話していく以外ないので、ご了解をいただくと共に、1年間をどうかよろしくお付合いいただきたいと思う。

 また、その内容についてであるが、もともと、理屈が好きな割りには数字に弱く、持続性に乏しい。だから、諸先輩が歴代書かれているような、微に入り細にわたる説明は出来ない。それだけの観察力がないことと、やはり浅学のためである。

 そこで題は 「ばらと遊ぶ12ヵ月」にさせていただいた。これは、格調高い内容の記事には到底なり得ないことと、やはりばら作りは遊びである。いかによく遊ぶかについて、あるときは独善に、あるときは仮説をもって、わたしの日頃考えてい ることを披露させていただくためである。だから、自己中心的になってしまうのは当然であり、「そんなバカな」という内容になるかも知れないが、ご容赦頂きたいと思う。

 それと、鉢植えについての新しいノウハウが出てきたようなので、折に触れて第一人者福島康宏氏の助言を借りるようにしたい。また、その他にもいろいろと分からないことが出てくるが、そのときは、諸先輩方にお尋ねすることにしているのでご教示願いたい。

 ばら作りそのロマンの温床となる時期一冬
 毎月の記事を、何にしようかと原稿に追いまくられて書くのでは、苦しいことばかりでちっとも楽しくはなかろう。オフシーズンの冬などは、あまりにも暇過ぎるものだから、ばら作りのロマン派として思索をめぐらしながら、実際には、去年の11月12月あたりから熟成してきたものである が、反省点や次年度への抱負、いろいろの面白い実験やレイアウトなどが重なっている。 これらを、その時期その時期に合わせて、自己流に書いていこうと思っているので、今までの手入れ記事とは 違ったものになるであろう。まず、それをお断りしなければならない。

 また、この1月号は1月の下旬に手元に届くようである。 だから実際的には2月号であるがそのつもりで参考記事にしなければならないようだ。

2. 今月のアイテム

イ. 予備剪定は、 落葉が始まったそのときに

前年秋に咲いた枝には、剪定枝で1枚当たり15 ~20段、 シュート枝からは、 30段以上の葉が付いているものもある。寒さが厳しくなるにつれて、ばらは生理活動が徐々に抑制されて、やがて休眠期にさしかかり、落葉を開始する。秋に600本咲かせたバラ園では、多いところで実に600本 × 30段 × 5枚 = 90,000枚もの葉が、落葉することになる。それ自体大変な量だが、その葉には、休眠した細菌が付着して越冬すると考えると、ばらのベッドには 一枚たりと残すべきではなく、落葉が始まる時期に、葉の付いたところから剪定して除去すべきで あろう。

 落葉は、ばらが葉からの栄養吸収をやめたときから始まるので、すでに地下部への栄養転流の終了を告げている証明であり、もはや、必要のない葉に対して感謝の気持ちをこめて樹からの剪定、訣別を図ることは無駄ではない。来るべき本番剪定を、やりやすくするための剪定が予備剪定である。

 葉は下葉から順々に落ちて行く。上部になるほど、少しの温度があればまだ休眠せずに活動するが、その温度境界は、大体10°Cが目安である。当地は、熊本北部の盆地であるが、夜は2〜5°Cになり、昼間は10°C前後である。ハウスばら園だと、夜の最低温度は露地並であるが、昼間は15~20°C にもなるので、昼は目覚め、夜は眠るで半睡眠の朦朧とした状態である。甚だ迷惑を感じているのではなかろうか。

 ばらに、休眠は必要なのであろうか。その答えは、切花業者の例を考えるといいかも知れない。切花業者のお休み時期は、7月~8月である。理由は、いい花が取れないからだが、気温は1年を通 じて1番高いときであり、休眠ではない。仮眠で ある。その時期は、花を咲かせないというだけで秋花に向けてのスタミナをつけている段階である。

 一方、 12~2月のわれわれの休眠時期は、切花業者にとってはかきいれ時であり、ばらは咲いては切られ、咲いては切られで、奴隷のように働かされる。そして、われわれのように1年で春秋に2回、ときに春の2番花を見て3回咲かせるのとは違って、7回以上は働かされる。その結果、疲弊のためか樹も4年を過ぎると収量は極端に落ち、更新しなければならなくなる。このように、休眠とばら寿命を関連づけるのは、実際は間違っているのかもしれないが、いまの段階では、ばらの寿命を長く保つためにはこのような説明が妥当のようである。

 従って、予備剪定は必ずしなければならないわけではなく、来るべき本剪定のときに一気にやってしまっても一向に差し支えないと思う。わたし は、いままでに1回もやったことはない。 それは、接木の穂を寒さに当てて保存するという別の目的のためである。 少々だらしない考え方かもしれないが、作業が少しでも楽になるように、予め整枝しておくくらいに考える方がよかろう。

ロ. もっとシュートを出させたい

諸先輩方がお年寄りになると、どうも、ばらまでも老化してしまう傾向が強いようである。名誉のために名前は伏せたいが、あれだけ元気な自慢のばらが、久し振りに訪ねると見る影もなくなっている。それは、恰もわたし自身の行く末のように感じられ、非常に寂しい気持ちになる。ご本人 が弱っていても、せめてばらだけはシャンとしていたいものである。では、元気を出させる工夫について。

 まず第1に 強剪定 (深剪り)の方法 がある。 これは、外科的な軽い手術をしてから樹の内からの生命力を利用して、再活性を起こす方法である。これは、春の花数を犠牲にして、どうせシュートのない木だから思い切って株もとの20~30セ ンチ辺りから剪る事である。 強剪定は、 ショックを和らげる意味で、1年で最も温度の低い時期で樹の活動が停滞している頃に剪る事が大事である。 (これはあくまで建前である。)

 もう7、8年も経つだろうか、忘れもしないが、4月9日に九州では歴史に残る凍害に遭い、新高 (にいたか)梨で有名な荒尾から当地南関にかけ て、すべての作物が−5°Cの気候にやられて、花、葉が凍ってしまいダメになってしまったことがあ る。4月上旬の頃は、ばらでいうと若葉が春の光を燦々と浴び、季節を待ちかねて花のように美しくも照り輝く時期にあたるが、そのときに葉が全滅してしまったのである。その朝、ハウスに呆然として立ちすくんでしまった事を覚えているが、 その時に熊本は宇土の住人福島康宏氏は、休日返上で早速わたしを見舞い、手当てを惜しまなかったが、そのとき「どうせ、自分では出来ないだろうから」 と言って、350本の樹をすべて根元10センチから切り戻してしまう荒療治をしたものである。勿論、彼とて何の裏付けもなく剪ったわけではなかろうが、「どうせだから、ここまで思い切ってやったほうがいいから」ということだった。

 結果的には新しいシュートも出て、秋には完全にもとの状態に復活したが、ショックのためか枯れてしまったのはコンフィダンスの2本だけだった。

 もう一つの例として、大株の付け根のシュートの出ている部分の丸くなっている所から、全部ス テムを剪り払ったらどうなるかであるが、これも新しいシュートを出して更新してくれる。もう数年前になるが、熊本のHさんのご主人はパパメイヤンが嫌いで、捨てるつもりで株元からきってし まったが、春先には見事にシュート花が咲き通常の剪定花よりも綺麗だったと言う。要するにばらは生命力豊かである。

 このように、なるべく低い所から剪定すれば、なぜかシュートが出てくれる。だから、先述のショックを出来るだけ少なくして剪定というのは「出来れば、望ましくは」という事になるのであろう。春の花数だけを犠牲にすればよいのだが、これは出来るようでなかなか出来ないようである。だから、ことしは1株でも2株でもいいから、実験されては如何なものであろうか。

 次に 肥料の元肥多施肥法 である。 これは、内科的手当てであって、 若干の副作用としてことしの春、場合によっては秋の佳花は諦めなければならないが、次年度以降に期待するのであれば、一番手っ取り早い方法でなかろうか。たしかに、シュートが多発する分、栄養過多のために佳花になりにくくなる傾向が強いが、中にはそうでもない品種もあって、案外好結果を生んだ例もあるようだ。

 多肥というとどの位か。 それは通常の2~3倍程度である。 ただし、無機質肥料だと、一挙に撒くと肥料の流亡や肥料負けが生じるので、100パーセントの即効型無機肥料は避けなければならない。無機肥料でも、緩効型の肥料例えば、硫黄コーティング肥料(三井東圧肥料製で一般にSC化成という)を12月中であればL 588(15・8・ 8)、1月中であればH400(14.10.10)がいい ようである。これは、一般的な化成肥料を20重量%の溶融硫黄でコーティングした緩効果を狙いとした三井東圧肥料(株)の独自開発による肥料である。この肥料分の溶出のメカニズムは、被覆した硫黄の微細孔から、極めて徐々に肥料分が溶け出してくる仕組みである。肥料の効き始めと同時に、20%の硫黄分も土中で酸化されて、硫酸根としてアルカリ分を中和していくので、堆肥の多用によって例年クロロシスに悩まされているところは特に有用である。施用量は、地質により一概には言えないが、目安としては窒素分として120g/可植面積㎡当りで、SC化成単用の場合はL588、H400で800g/可植面積㎡当りとなるが、 わたしは有機質肥料アダージオ(4・4・2)と併用を考える。アダージオは動物性、植物性を各50パーセ ントずつで構成されており、75日熟成の炭素化率 (C/N)=7のバランスの取れた長期安定型の一発型の肥料である。この肥料の特長は、ばらが欲しがるだけの肥料分を吸収することで、必要ないときはバクテリアが保有しており、流亡することはないことである。

 シュートを出させたいときの施肥処方の一例は下表の通りである。

(単位:可植面積㎡当り)

 施肥についても、また若干の補足説明が必要である。一般に、肥料の量はその土地柄によって大きく異なっており、わたしの知り得る限り、全国各地データも様々である。ばら栽培に関して、施肥関係については何も言うな。言うべきではない。それは、分らないことが多すぎるからだ。というのが、相場のようである。例えば、シュートを出させるために牛糞堆肥をどんどん敷き、その上にいままで散々肥料をくれてきた所は、燐酸吸収係数が上がり、少々の肥料では効かなくなっているかも知れないし、pHが高くなって微量要素の効きが薄れていることもあるだろう。土壌にしても、粘っこい赤土でありながら塩基置換容量が大きく、しかも団粒構造になっていて抜群に水はけのよい植え床は、わたしにとってはよだれの出るような土であり、そういうところではほんのちょっとの施肥でも敏感に作用するから、シュートが出ずに苦労することもなかろう。しかし、そのような理想的な土地で栽培している人は少ないと思う。

 このように、肥料は土壌と密接不離な関係があるが、最近は土壌と同じ役割をもたせる副資材が出てきて、もはや植物栽培には土壌はいらないという意見も多く聞く。これについては、後の号でゆっくりと話すチャンスがあるのでそれに譲るが、ここでもう一つ述べておきたいのは、可植面積㎡当りについてである。

 ばらは、一般に株当りにどのくらいの花を咲かせることが出来るのであろうか。結論的には、密植だろうが疎植だろうが、開花本数はほぼ同じである。ここでいう疎植とは1株1㎡以内とすると、ばらは生育環境が同じであれば、根のはびこり方と開花本数は正比例の関係が成立する。そして、栽培面積が60㎡とすると、わがばら園ではそのうちの半分以上は通路で約6割を占める。従って、約24㎡しか栽培していないことになる。そこに600本開花するとすると、 栽培面積当りでは600/60=10本であるが、100株の密植であれば600/100=6本/株、 30本の疎植(俗にいう大木づくり)であれば20本/株になる。 だから、株当り肥料何gというのは説明が不充分だということにな る。可植面積㎡当りというのは、 通路を除いた植え床の面積を言っているが、便宜上、今後もそう言う表現にしたい。 1㎡に大体3本見当で植えてあるならば、 施肥量は1/3でいいことになる。

 次にシュートを出させるのとはちょっと違うが、ばらへのいたずらとして 切り接ぎシュートの工夫 がある。 それは、ステムの下部に途中シュートのように枝を立たせるために、接木と同じ手法で外科手術を施すことである。

 最もオーソドックスな切り接ぎは、ノバラの台木に切り込みを入れ、そこに目的の穂木を挿し込み、その上を切除する方法であるが、これを成木に応用したものである。

 最近は、接木用にパラフィンテープが開発されたので、非常に便利になり、愛好者にいろいろおもしろく使用できるようになった。このテープは 次のような特徴を持っている。 まず、このテープはパラフィン製で粘着力があり、ゴムのように伸びるので、結紮の必要がなく、ただ巻き付けるだけですむ。活着後も自然に樹に馴染むため、解いてやることもない。勿論水分の蒸散を防ぐので、穂木の先端を蝋付しなくてもよい。参考までに接木テープを紹介しておく。 JA(農協) で扱っており、品名は「メデール」という。 1巻30メートルあると聞くが、1,000円くらいである。

 これを用いて、真夏にも腹接ぎをして遊んできたが、今年は去年の経験をもとに、枝分れが上部になっいる樹に切り接ぎをする。そのやり方は下図の通りである。

 拙図の若干の説明をする。イのように、一本独鈷になった樹の下部の接ぎ木したい部分のトゲをよく取り払い、口のように15センチ位から数ヵ所に鋭利のカッターナイフでの切り込みを入れる。ハの穂木を切ってきてニ、ホのようにナイフでクサビ状に切り、口に含んで水分を保ち、口に挿し込む。へのようにパラフィンテープでぐるぐる巻きしたあと、トの本剪定のときにへのすぐ上の部位から切ってしまう。

 大事なポイントは、口の形成層(皮と髄の境の緑の部分)とニ、ホの形成層が出来るだけ多く接触していること(活着のカギはこの部分)と、ハの芽は出来るだけ動いていない(膨らんでいない)部分であること、へのパラフィンテープで巻くときは、ナイフを入れた部分が空気に触れて蒸散のないようにすることである。一方で、芽の出るところだけは、多くて2巻き位に止めたが良いだろう(あまりぐるぐる巻くと芽が出にくいから)。昨秋、12月から毎日少しずつこの作業をしてきたが、その頃は、まだ接木した樹の根元は傷口から出た樹液のためにかなり濡れており、休眠が間近というのに、まだ旺盛に活動していることがよくわかる。

 去年は、あけぼのに3本、この実験をしていて、すべて活着している。また、みわくには一昨年オ ペラ、レディベルバー、 チェリオ ジュリア、エリエンヌなどの穂木を埼玉の石井強氏に送ってもらって立派に活着している。 あけぼのの場合は同品種であるが、 みわくは春の花がダブるために遊びでやってみたわけであり、春の花を見た後は、その下から切り戻してもとのみわくに返している。

 我が家でいうと、ピンクラスターやマダムビオレ、レデイマリーなどが一本独鈷になりやすい品種であるが、上で枝分れしている本数の+1の切り接ぎでどうだろう。 古くなるほど、形成層の見分けがつき難くなっているので、穂木の方も大きいものを選んだ方がいい。失敗してもいいように、保険をかけて腹接ぎしてステムの上も生かすやり方だと、活着は半分程度に下がるようである。 そして当然ながら、出る芽も弱いのが相場である。

 この方法は、実生をやっておられる方にも有用と思うが、すでに実行しておられるのだろうか。切り接ぎ後の成績であるが、通常平均4本しか立たないあけぼのに対して、同じく3本から4本の枝立ちであった。以前あけぼのには、ビッグ チーフを接いだことがあるが、あけぼのは樹勢が弱いと言われているようだが、この活着後の勢いを見ると、案外そうではないんじゃないかと思っている。

 パイプが出来るほど、堅く白っぽくなったステムに切り込みを入れ、樹高を低くするより、いっそのこと更新した方がいいに決まっているかもしれない一方で、折角の古木を大事にしたいと言われる方もおられると思うので、参考までにご披露する次第である。

ハ. 植え床がどうも気になる

九年前に、この地にハウスを作ったときの肥料、副資材の設計は次表のようなものだった。

注)全面施肥なので可植面積=全面積になる

 牛糞堆肥からくる窒素、カリが意外に多く、堆肥の成分誤差を考えると、全窒素の数量は実際にはほとんど意味をなさない。設計上では、ばら一生の肥料とでも言うべき量を深さ1メートルにやっている。しかし、いくら深耕しても、 土が火山灰だったので、団粒化であるわけがなく、極めて水はけの悪い床土となってしまった。いまにして考えてみると、このうち、どのくらいが肥効としてばらに寄与しているか不明である。一晩灌水しても、水溜りが起きることはないという、諸先輩の自慢の植え床からすると、わがハウスはその 出発点からすでに大きなハンディを負う羽目になった。

 植え床の水はけの良し悪しは、土壌資材の孔隙率の問題に関わると思う。土壌や土壌改良資材は、根に酸素を供給する重要な媒体であり、その中に微量な要素や、物性として保肥力を持っていれば理想的である。現代農業における、ロックウールによる水耕栽培は、 肥料分を必要なだけ希薄水に溶かし滴下供給する一方で、露出した白根は、空気をふんだんに享受することによって、大きなサイクルを描いていくことになるので、収穫も上がるのである。

 ばら作りは、それなりに咲かせればいい派と、もっとより良く咲かせたい派とあると思うが、植え床の整備は後者の立場に立てば、最も重要な課題である。わがハウスは、最近になってようやく水の通りのよい土になったが、まだ一晩中という わけにはいかない。ことしは、思いきって多肥でシュートを立たせるために、アダージオを使ってみようとおもっているので、先述のアダージオとH400併用の処方でそれに籾殻を10L/可植面積㎡当り(表層厚み1cm) で使ってみたいと考えている。

 去年までは、植え床には草取り省力とマルチン グ代わりで敷きわらをしてきたが、雑草が、わらの隙間から覗き出すとかえって除草に手間がかかり、煩わしいことがわかってどうしようか悩んでいたところ、去年の全国展の懇親ツアーのバスの中で、青森の工藤氏から籾殻の効用を聞かせていただきそれにヒントを得たものである。ただ籾殻の腐敗が始まるときには窒素飢餓現象によって窒素をかなり消費するのでその時期がいつになるか課題である。

 もう一つの60㎡のハウスは、去年春に新設したもので、その前年の「フレーフレーネニサンソ」の稿に追加綜合すると、赤玉土を2トンと牛糞堆肥 150L(100 kg)、 アダージオ 20kg、 ネニサンソ5袋を追加している。 これらをまとめると下表のようになる。(一昨年は前面施用、 昨年は可植面積当り)可植面積は60X0.4=24㎡とする。

注)単位がまちまちであるが袋表示をベースにした。

 去年追加した赤玉土、その他によって水はけが、かなり改善されてきた。こちらの方は、ほぼ通常の処方で、アダージオベースで40g/可植面積㎡当りと、土改剤として赤玉土を20kgと籾殻を6L(いずれも可植面積㎡当り)を加えようと思っている。

ニ. 消毒について

 以前は、石灰硫黄合剤の10倍液を、1月〜2月 にかけて2回ほど散布していたが、ここ5年ほどからやめている。マシン油だけになってしまった。石灰硫黄合剤は、強いアルカリ性のため、動力噴霧器 (動噴) についている真鍮のノズルを、一挙に腐食させてしまうのが何とはなしにいまいましく、高価な動噴のシリンダーにもケチがつきそうな気がして使用しなくなった。もし病害が越冬して、翌春に病気を発生させるということがあるかもしれないので、 その心配の方は秋のばらで気になる病状についての防除を行うがよかろう。 わたし自身について言えば、冬は完全にずぼらで過ごしてきた。そのつけが、季節になって現われると言う先輩もいるので、今年あたりはベト病と灰色かび病、ポ トリチス用にとして通常の2倍の濃さで1〜2回くらい散布しようと考えている。 ただし、肝腎の人 間が参らないように、使い捨てた目の大きくなったノズルがあれば、それを使いたいものである。

ホ. 移植または更新について

 冬の時期に、一番楽しく夢を追いかけるものに移植と更新がある。400本からあるわがハウスから、毎年毎年その10~15%が更新のために追い出される。非常に浮気っぽい話だが、植えてみて家主の気に入らないものは遠慮会釈なしに捨てられてしまう。そのくせに、また欲しくなって慌てて先妻を追っかけたりすることも多々あるから、みっともない話ではある。追い出される樹は、公園に植え込んだり、勤務先の同僚が毎年楽しみにして待っている。

 淘汰する樹が40~50本なら、 移植する樹も毎年10本から20本はあろうか。根が傷つき、ガンの原因になるとよく言われるが、わたしの場合はあまり頓着しない。

 移植するくらいなら新規に苗から植え付けよと言う先輩がいる。そしてそれに抗弁するとだからあんたはダメだ(「良い花を咲かせることが出来な い」)となる。これに関して凄い挿話をひとつ。もう9年になる。 3月中旬頃だったと思うが、 こ れから本格的に始めようという人がいて、 どうせ新苗から始めるのだが、どのようにして出発するかについて質問が出た。これに対し、ある先輩がこう答えた。「まず、 野ばらの台木から植えこむこと。 今年1年は野ばらを栽培すること。そして秋10月になってから、その成長した台木に芽接ぎをして、翌年秋に本格的な栽培をはじめること。

 春先に、これから初めてばら栽培をしようというときに、新苗も求めずまるまる1年半も花を見ることもなくじっと禁欲し、ばらを育てるのでな く、野ばらを育てる人がいったいどこにいるだろうか。

 その初心の人は、先輩の言うことを忠実に守り、1年半後の秋には、それはそれは素晴らしい樹に成長させて、ばらコンテスト界に颯爽と登場したのであるが、それが誰あろう福岡は福間に居を構える小田氏である。それ以来、わたしは、ばら栽培の年数から言えば一応は小田氏の先輩ではある が、一度も勝った事がない。一方は成木を移植してから栽培しようとするが、一方では一年半も待ち芽接ぎ苗から平然と出発する。あとの説明はいらない。この努力が実力であり、能力なのである。しかし、わたしにしてみるとこの植え替えや淘汰更新、接木の計画は、1年中で一番暇なときに格好な楽しみなテーマであることは事実である。

へ. 接木の楽しみ

 わたしのばら作りの出発点は、接木法の習得であった。20年前に習った当時の接木法は、今にして思うとガンが台木のところですでに10~15%はあったし、接木の紐は畳用のシットで、穂木の先は水分の蒸散を塞ぐでもなく、接いだ苗は寒気に当てて土中に放りっぱなしで、ただ形成層だけはしっかりと合わせるようにという指導だったので、活着率は悪いわ、病気で腐るわがしばらく続いた。それでも、素人なりに僅かばかりの接合に喜んだものである。

 最近は、農業の他分野につよい要望もあってか、接木用テープが開発されるに及び、接合技術が大いに向上したことは確かなようである。業者の間では、まだ少し高価だと言う声も聞かれるが、結局、省力と高い活着率によってパラフィンテープが使われることになったようである。

 接木の方法は「ロ. もっとシュートを出させたい」で述べた。 原理的にはまったく同じであるが、接いだ苗は3.5号のポット鉢で肥料気のない土壌または土改剤(後述の鉢替えで1例紹介)に植え込む。 そして、夜間はマイナスまで下がるので、日中も含めて20°Cまで加温している。加温はボイラーやシーズヒー ターまたは規模によっては石油ストーブでもよい。 時期は1月中旬から下旬にかけてである。 苗は2週間〜3週間にかけて発芽し、活着を知らせてくれるが、接木してから遅くとも40日以内、早いものでは30日には第1回目のピンチが行える状態になる。 それから更に25日位すると、第2回目のピンチが出来る。このようにすると、4月上旬には2節〜3節ピンチの高さ1.5メートルの立派な新苗が出来上がる。なぜここまで成長を急ぐのかについては、苗というものは 「苗半作」 と言われるよ うに、生まれ立てのときから、出来るだけ大きな成長サイクルを描かなければ、その後の生育も良くないと思っているからである。 詳しいことは、次号以下に述べる予定である。

ト. 植木鉢の手入れ

 一般に、植木鉢栽培ではどのくらいの樹勢で咲くのであろうか。先年、仕事で鹿児島通いをしていたとき、ふと喫茶店に入ったところが、12号鉢で3メートルにもなるような高さでHTがツルばらのように咲いていたので衝撃的であった。そこの店の主人が、 熱病にかかったように突如ばらを始めたということで、器用な人で感心したが、翌年そこを訪ねたら、意外にもあのときの樹勢がまったく損なわれていたので、がっかりして帰ってきたものである。主人は、ばら栽培の経験はド素人で、ただ書物に頼ってそれだけであの年の出来になったのであるが、それで安心してしまった結果が、その翌年の状態であった。基本が不充分だったのか、土の入替えがしてなく、 従って鉢替えもしてなかった上に消毒も怠けたものだから、当然と言えば当然であった。しかし、この知見は鉢も管理さえしっかりやれば、露地以上の出来になること、言うまでもないことを示している。

 昨年の全国展で、3花の部で優勝した熊本は宇土市の住人福島氏は、一昨年の大阪の全国展でも日本作出花と3花で優勝しており、毎年どの種目かで優勝する実力者である。以前は、自宅の近くでかなり大規模にばらを作っていたが、ここ2、3年は仕事が忙しくなって鉢植えに転向している。露地より鉢植えの方が、はるかに育てやすいと彼は言い放つ。そこで、鉢植えについては、福島氏の意見を参考にして随時紹介していきたい。

 今月は、去年の鉢の手入れを特に急ぐので、そ の紹介にとどめる。

 去年までに鉢で咲かせた樹は、鉢上げ後、1月中に出来るだけ小さく根を切り、6号か7号鉢に鉢替えを行う。出来るだけ小さくという根拠は、鉢植えは鉢替えをどれだけやるかで勝負が決まる。鉢替えのたびに白根が成長し、次の鉢替えにまた白根が、次の鉢の廻りにびっしりと取り巻く。 理屈はそれだけで、あとは応用である。

 その時に使う用土は、次のような条件の備わったものを使う。

  1. 清潔で病害虫、 雑草の心配のないこと。
  2. 肥料分の少なく、 pHが弱酸性(5〜6位)のもの。
  3. 排水がいいこと。
  4. 鉄欠乏症の出ないこと。

 以上を考慮に入れると用土資材としては具体例として次のようなものになる。

注)兼弥産業のTELは092-503-1065. 参考までに。

 鉢替え最初の用土は、発根条件を高めるために肥料分は極端に控えたものを使用する。スピードリングは、その点で十分配慮の届いたものなので安心して使える。肥培管理は、樹から新芽が出てきたら発根が始まるが、その頃までは灌水は水だけにする。1段目の葉が充実し、5節位でソフトピンチを行うが、2段目の枝が伸び始めた時点から液体肥料を施肥する。肥料の具体例はポリフィード (11-8-34) の5000倍を灌水替りに行 う。


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